一匁のいい助さん・手まり歌(江津市波積南)

語り(歌い)手・伝承者:坂本邦栄さん(昭和24年生)

一匁(もんめ)のいい助さん
いの字が嫌いで
一万一千一斗石
一斗一斗一斗まの
お蔵に納めて
二匁に渡した
ストントン
二匁のにい助さん
いの字が嫌いで
二万二千二斗石
二斗二斗二斗まの
お蔵に納めて
三匁に渡した
ストントン

(以下、十匁まで行けば、例えば「チンドン屋に渡した」というようになり、次には「チンドン屋」の歌に変わる)

(収録日 昭和36年10月2日)

解説

 数え歌形式のこの手まり歌はよく知られている。これを聞かせていただいたときは、筆者もまだ25歳だった。当時、筆者は三隅中学校教師だったが、『朝日新聞』島根版と石見版に「石見のわらべうた」を連載していた。そのようなことから読者のお便りで江津市の波積地区を訪ねてうかがった一つが、この歌だった。元気よくうたってくださった当時、小学生だった坂本さんは、今ごろどうしておられるやら、と思うことがある。
 ところで、同類は広く各地に存在しているが、出雲部の松江市八束町の例を挙げてみよう。

一匁のい助さん
芋屋のおばさん
芋 ちょうだい

二匁のにい助さん
肉屋のおばさん
肉 ちょうだい
(足立ひとみさん・昭和21年生)

 この場合は、三以下、サバ屋、ようかん屋、ごぼ屋、ろうそく屋、寿司屋、花屋、キュウリ屋、重箱屋と続き、その後が、

一匁のい助さん
いの字が嫌い
一万一千一百億
一斗一斗一斗米に
お蔵から納めて
二匁に渡した
ニャーオ

 こうして二、三…と続き、江津市の同類と似た歌になってゆく。
 鳥取県の東伯郡北栄町の歌を紹介しておく。

一匁のい助さん
芋買いに走った
ラッショ ラッショ
ラッショ(二番以下、にんじん、山椒、洋服、ゴンボウ、ろうそく、菜っ葉、ハッカ、キュウリ、重箱と続く)
(乗本かな江さん・昭和6年生)

 これは昭和昭和56年に聞かせていただいたものである。歌い手の乗本さんは、中年だった。それより前の世代の方からは、これは聞かれない歌であり、そのような理由で、乗本さんくらいからこの歌はうたわれるようになったものと、筆者は考えているのである。