お月さんなんぼ・子守歌(隠岐郡隠岐の島町今津)

語り(歌い)手・伝承者:佐々木ハルさん(明治31年生)

お月さんなんぼ
十三ここのつ
そらまんだ若いな
若ぁもござらぬ
いにたあござる
いのる道で
いいもの拾って
ええ子を産んで
あの子に抱かしょか
この子に抱かしょか
お万がピヨピヨ

(収録日 昭和55年8月10日)

解説

 島根県の場合にも、いくつかの地方差が見られる。この歌を教えてくださった佐々木さんは「月夜に子どもに聞かせた」と話されたが、これは子守歌の遊ばせ歌といえるだろう。詞章が「そらまんだ若いな」などから見て伯耆地方から出雲地方にかけて伝えられている歌の亜流といえる。
 ところで、松江市八束町入江や寺津には月の古称を示すような出だしの歌が残されていた。

アタさんなんぼ
十三ここのつ
そらまんだ若いぞ
若うはござらぬ
いにとうござる
いなさる道で
サト餅買うて
だれにやろか
お万にやろか
お万が部屋は
今こそ見たれ
金襴緞子(きんらんどんす) キリコの枕
(入江・吉岡鶴之助さん・明治38年生。寺津・渡部ツネ子さん・明治7年生)

 この「アタさん」なる語は、柳田國男の『小さき者の声』を借りると、日本に仏教が渡来する以前に、祖先の人たちが信仰の対象として、太陽や月を拝む際に発していた「アナトウト(ああ尊い)」に起源を持つ「アト」の変化したものではないかと考えられる。そして筆者は、島根県の西端、柿木村柿木で、まさに柳田のいう「アトさん」で始まる次の歌を、八束町で聞く七年前の昭和37年に聞いている。

アトさまなんぼ
十三ここのつ
それにしちゃあ若いの
若いこたぁ道理
胴馬へ乗せて
あっちへじろり
こっちへじろり
じろりの中で
よい子を拾うて
お千に抱かしょ
お千はいやいや
お万に抱かしょ
お万もいやいや
お万が部屋を
今朝こそ見たら
金の屏風(びょうぶ)に鹿子(かなこ)の枕
(小田サメさん・明治31年生)

 この月の古称を意味するアタとかアトの語を用いた歌は、筆者としては八束町と柿木村以外の山陰両県では、まだ聞いていない。しかし、収録を続けていると、こうした古さをしのばせる貴重な伝承に出会うことがある。それがまたこのような研究の言い知れぬ魅力ということになる。