ひとえやふたえ・羽根つき歌(江津市桜江町谷住郷)

語り(歌い)手・伝承者:島田久子さん(明治38年生)

ひとえや ふたえ
みよとしゃ 嫁が
いつ来てみても
ななこの帯を
八の字に締めて
ひーやふー みーやよー
いつやむう なな や このとう

(収録日 昭和46年8月18日)

解説

 正月の羽根突きのおりにうたわれていた歌である。華やかな年中行事である正月の羽根突きではあるが、その歌の詞章としては、以前の嫁の境遇を物語るような厳しいものとなっている。島根県の石見地方のものはだいたい同様で、たとえば三隅町で聞いた次の歌もそのようである。

ひとろ ふたろ
みよこし 嫁は
いつ来てみても
ななこの帯を 八つ手に締めて
ここのやで
いっちょうない
(山根キヌさん・明治21年生)

 ところで、これが出雲地方になると、必ずしもそうではなく、後半部分に薬師参りにでも行くのを暗示しているような詞章がこめられている。大社町の例で見てみよう。

ひとめ ふため
みよかし 嫁御
いつやの昔
ななやの薬師
ここのつ とお
(手銭歳子さん・大正7年生)

 ところで、鳥取県では、婿の優しさを読み込んでいる場合が多い。東部の岩美郡国府町では、

ひとろろ ふたろろ
みんみが よことて
いつさか 婿とて
何とで やさし
ここのさら とおついた
(加藤まさのさん・大正元年生)

西部の米子市でも、

ひとよろ ふたよろ
みんみが よっこさ
いつとか むっこさ
なんとか やさし
ここらで とんやろ
(伊沢君子さん・大正13年生)

 このようになっており、「むっこさ」は婿から来ているものと思われる。

 一から十までの頭韻を踏んだ内容になっているこの歌は、時代を遡ってみると、江戸時代に存在していた。文政3年(1820年)に釈行智がまとめた『童謡集』では「羽根突き唄」として、次のようになっている。

一子にふたご、
三わたしよめご、
だんのふやくし、
あすこのやじや十ぅ、
こゝのやじや十ぅ。

 こうして眺めてみると、この歌も古くからあることが分かる。