ねーん ねーん ねーんや・子守歌(隠岐郡海士町御波)

語り(歌い)手・伝承者:上野ヲキミさん(明治25年生)

ねーん ねーん
ねーんやー
ねーん ねーん
ねーんやー
ねんねこした子は
かわい子よ
ねんねこしぇぬ子は
憎い子よ
ねん ねーん
ねーんやー
ねーん ねーん
ねーんやー
寝たやら音がない
ねんねこしたやら
音がない
寝た子には 米の餅
ねんねこした子にゃ
米の餅
ねんねこしぇぬ子にゃ
キビの餅
寝たやら音がない
寝たやら音がない
ねんねこしたやら
音がない

(収録日 昭和48年6月2日)

解説

 筆者が昭和48年に海士中学校に赴任していたおり、「とても上手に子守歌をうたわれる方がいる」との情報を得て、おの内容から分かるように、これはいわゆる「遊ばせ歌」ではなく、赤ん坊を眠らせるためうたう「眠らせ歌」である。よく眠る子には、後でおいしい米の餅をあげるが、眠らずにむずがる子には、キビの餅を食べさせるぞと、それとなく脅かしている。
 この類歌は、かなり広く各地に認められている。鳥取市佐治町尾際では、

ねんねんころろん
ねんころり
坊やは良い子だ
ねんねしな
坊やが寝た間に
バボついて
起きたら冷(さ)まして
食わせるぞ
ねんねんころろん
ねんころよ(福安初子さん・大正4年生)

 このように寝た子をほめて、その褒美としてバボを作ってあげるというのである。バボというのは餅を意味する方言である。
 上野さんの歌と比較してみると、前者の歌の前半部が、そのまま独立したような形になっている。すなわち、後半部の眠らない子には、おいしくないキビの餅を食べさせるというところが、抜け落ちているといえる。
 こういったところに伝承民謡の自在さを感じるのである。
 ところで、さらに省略が進み、褒めたり脅かしたりする部分が、まったく脱落したものとして、倉吉市上井町に次の歌がある。

ねんねんや
ねーんねーんや
ねんねんやーころりいや
ねんねんやーなー(中島泰子さん・明治37年生)

こうして眺めていると、さりげない形でありながら、筆者たちの前に伝承民謡の法則をしっかり踏まえたて、各地の歌が存在していることが分かる。