あぶくたった・鬼ごっこの歌(大田市三瓶町田)

語り(歌い)手・伝承者:水滝佑子さん(昭和54年生)

全員 あぶくたった
   煮えたった
   煮えたかどうか
   食べてみよ
   むしゃ むしゃ
   むしゃ
鬼  まだ煮えない
全員 あぶくたった
   煮えたった
   煮えたかどうだか
   食べてみよ
   むしゃ むしゃ
   むしゃ
鬼  もう煮えた

(収録日 昭和63年2月12日)

解説

 これは鬼ごっこの前奏曲にあたる歌と言うことである。
 まずこの遊び方を説明しよう。
 子どもの一人が鬼になってまん中に入り、何人かで囲んでいる。そして「…むしゃむしゃむしゃ」までは周りがうたう。「まだまだ」とか「もういい」とかは鬼が言う。「…食べてみよ」では、鬼の体を触って、「むしゃむしゃ」と食べるふりなどして、次々即興の詞章を重ねる。
 たとえば「袋に入れて」、「がちゃがちゃ鍵をかけて」、「ご飯を食べて」、「歯磨きをして」、「お休みなさい」などである。そして戸の鍵をかけられた人が「コンコン…」と言うと、周りは「だぁれ」と言う。まん中の鬼が「お父さんが帰ってきた音」など答える。すると周りの者は「ああよかった」とまた寝る。このように続けているうちに、やがて鬼になった子どもは「お化け(幽霊)が来た音」などと言って正体を現す。そこでみんながキャ-とばかり逃げ出すが、まん中にいた鬼が、そのようなみんなを追いかけて、ある人にタッチすると、今度はタッチされた者が交替して鬼になる。
 つまり、この歌をうたいながら問答をし、鬼の答えの内容によって、たちまち鬼ごっこに変わるわけで、そこからこの歌が鬼ごっこ遊びの前奏曲といった役割を持っているといえるのである。
 なお、歌とは表現したけれど、正確に述べれば、「もう煮えた(まだ煮えん)」までは歌で、後は、メロデイを喪失して、単なる謎かけ問答になっているのである。
 似たものとして、浜田市三隅町福浦などで約六〇年前に聞いた次の歌がある。

皆 一山越えて
  二山越えて
  三山の奥に
  火がちょんぼり
  ちょんぼり見えた
  狐さん 狐さん
  遊ぼじゃないか
狐 今ねんねの最中
皆 お寝坊じゃないか
狐 今顔洗う最中
  (途中の問答省略)
狐 今ご飯食べてる最中
皆 おかずはなぁに
狐 蛇とカエル
皆 生きてるか
  死んでるか
狐 生きてる
 (鬼ごっこになる)
(斎藤直子さん・昭和21年生)

ここでは狐が鬼に相当していることは、改めて説明するまでもないことと思う。