唐人の寝言・言葉遊び歌(隠岐郡隠岐の島町津戸)

語り(歌い)手・伝承者:小野イヨさん・年齢不詳)

唐人の寝言には
オオショ テレスコ
メェショウナ ネーロニマンネーロ キンカニ
ギンカニ キンチョウ
サイテテーレス
イチズクヤーノ
オトトク シンタン
カンポンタン
イラナイショウカワ
ズンベラ ポントコ
ネーターカ ツウパアパ

(収録日 昭和52年)

解説

 昭和52年の7月と8月。県立隠岐島前高校郷土部は、憶岐の島町(旧都万村)の民話や民謡、わらべ歌などを収録するために四泊五日での遊魚管理センターを宿泊所として合宿した。そのおり、筆者がうかがった歌の一つがこれであった。うたってくださった小野さんの年齢の記録が見つからないので不詳としておいたが、何人かのお孫さんを前に、楽しそうに教えてくださっていたところから、少なくとも当時、六十代にはなっておられたかと思う。そして、そのときの小野さんの話では、この歌は特別の意味はないそうだ。が、なるべく早く言い間違えずに言うのがおもしろくて、友だちと言い合って楽しんだものです、とのことだった。つまりこれは早口言葉の一種というべきものなのである。
 それから二年後、同校郷土部と松江市立女子高校民話研究会の合同調査を五箇村で行ったさい、たまたま同類が見つかった。それは先のものとあまり違わない次のような詞章であった。

唐人の寝言には
オオシュ テレスク
ネイーソウ キンカネ
ギンカネ ギンチョウ
サイテ ヤータラ
ボータラ オトトコ
シンタン カンポンタン
ヒラナイソウカ
ズウベラボン スットコ
ネイタカ ツーパーパー(吉山イナコさん・大正13年生)

 以前は外国人のことを、おしなべて唐人と呼んでいた。そしてこの歌は出だしの「唐人の寝言には」こそ日本語であることは理解できるが、それから後の詞章では「キンカネ、ビンカネ」が、「金かね、銀かね」とでも受け取られそうな語句はあるものの、大半はどう考えても意味不明で、外国語のような詞章が続いている。
 それを言い間違えずに、より早く言った者が勝利するという、いかにも子どもたちが喜びそうな遊びになっているところに、この歌の存在意義がある。
 筆者としては、今のところ海士町保々見の徳山千代子さん(明治37年生)からもうかがったが、隠岐郡以外では、まだ収録をしていない歌である。けれども、以前、確かにどこかで聞いたことがあるように思えてならないが、それがはたしてどこだったのか、思い出そうとしてもなかなか思い出せない。