向こうの山ぁ 猿が三匹通るが・子守歌(鹿足郡吉賀町白谷)
語り(歌い)手・伝承者:斎藤クニさん(明治20年生)
向こうの山ぁ 猿が三匹通るが
後の猿ももの知らず
先の猿ももの知らず
いっち中の子猿が ようもの知って
銭を一文拾うて
イワシを一こん買うて 食うたれば
あんまり塩が辛うて
沖の淵ぃ飛び込んで
水ぅ三杯飲んだれば
あんまり腹が太うて
仏棚へ上がって屁をプリプリひったれば
いかい仏は泣きゃぁる
細い仏は笑やぁる
笑やんな 泣きゃんな
十日の市には ピイピイ買うてまいしょ
(収録日 昭和42年3月17日)
解説
いたってのどかな子守歌である。まるで童話を聞くような雰囲気の内容ではなかろうか。これを聞く幼子も楽しいだろうが、うたっている子守り自身もけっこう楽しんでいたと思われる。
ところで、この歌はたいてい「向こうの山を猿が三匹通る…」で始まっているが、鳥取市では、その前にまだ別な詞章のついているものがある。
下手(しもで)の子ども衆 上手(かみで)の子ども衆
花折りに行かいな
何花折りに 桜の花折りに
一本折りやパッと散る
二本折りやパッと散る
三本目にゃ日が暮れて
上の小屋に泊まろうか
下の小屋に泊まろうか
上の小屋に荷置いて
下の小屋に泊まって
朝起きてみたら
向こうの山を 猿が三匹とびおった
後の猿はもの知らず
先の猿ももの知らず
中の子猿がもの知りで
なまず川にとびこんで
なまず一匹へさえた
手で取るもかーわいし
足で取るもかーわいし
灯芯(とうすみ)屋に行きて 灯芯一本買うてきて
杓子屋に行きて 杓子一本買うてきて
麻幹(おがら)屋に行きて 麻幹一本買ってきて
杓子ですくって 麻幹で結(い)わえて
灯芯で結わえて 麻幹でいなって
堂の隅に持ってきて ギザギザと刻んで
あなたに一切れ こなたに一切れ
だれのがたらん お万のがたらん
お万どこにく 油買いに酢買いに
油屋のかどから 牛の糞で滑って
馬の糞でとどまって 油一升こぼいた
その油どうした 犬がねぶってしまった
その犬どうした 太鼓にはってしまった
その太鼓どうした
あっちにドンドン
こつちにドンドン
たたき破ってしまった
その破れどうした
雪駄にはってしまった
その雪駄どうした
あっちにチヤラチャラ
こっちにチャラチャラ
はき破ってしまった
その破れどうした
あっちにゴロゴロ
こっちにゴロゴロ 川に流してしまった
(石川ますゑさん・明治35年生)
これもなかなかスケールの大きいものである。