カラス カラス 勘三郎・動物の歌(隠岐郡隠岐の島町元屋)
語り(歌い)手・伝承者:茶山儀一さん(明治30年生)
カラス カラス 勘三郎
親の恩を忘れたか
(収録日 昭和60年8月8日)
解説
「親の恩を忘れたか」という詞章は、かなり珍しいようなので取り上げてみた。鳥取県東伯郡三朝町曹源寺でもほぼ同じ詞章である。
カラス カラス 勘三郎
親の恩を忘れるな(川北静枝さん・大正6年生)
夕焼け空の中をねぐらをさして急ぐカラスのシルエットは、もともとカラスの黒い身体がいっそう黒く強調されて不思議なロマンが漂うのか、子どもたちにはとりわけ親しまれた鳥といえるのではなかろうか。それは大人の間でいわれている「カラス鳴きが悪いと、近く死人が出る」などのような、どこか不吉な前兆を呼ぶ鳥としてのイメージとはずいぶん違うようである。しかし、どこから「親の恩を忘れたか」という連想が出てくるのだろうか。まさに自由な発想だと思う。多くの歌は次の江津市桜江町谷住郷のような内容である。
からす からす 勘三郎
西の山は大火事だ
はよう帰れ そら焼ける
(本山ハルエさん・昭和2年生)
大田市三瓶町川越では、
からす からす
早(はよ)いなにゃ
おまえの宿が焼ける
杓(しゃく)がなけなら
貸しちゃろか
水がなけなりゃ
汲んじゃろか(水滝 ミツコさん・昭和元年生)
鳥取県智頭町芦津でも、
カラス カラス
勘左衛門
われが家が焼けよるぞ
早ういんで
しょんべをかけ
肥をかけ(綾木鶴子さん・大正6年生)
このようにうたっている。つまり、自分の家が火事だから早く帰るように呼びかけているのである。ところで、鳥取市鹿野町大工町などでは、火元が自宅ではなく親の家としている。
カラス カラス 勘三郎
親の家が焼けるぞ
早いんで 湯うかけ
水うかけ(竹部はるさん・明治31年生年生)
こうなれば、初めの歌の「親の恩を忘れるな」という詞章の意味が、二つの歌をつないで考えることによって、どうやら分かるようである。つまり、親の家が火事だから、親の恩を忘れずに、急いで帰って消しなさいと言っていると解釈できそうなのである。
各地の歌を比べて想像の世界に遊ぶのも楽しいものである。