一つ人々礼儀が大事・手まり歌(隠岐郡隠岐の島町小路)

語り(歌い)手・伝承者:小川やうさん(明治28年生)

一つ人々礼儀がだいじ
二つ深いは親子の道理
三つみなさん
辛抱がだいじ
四つ世の中開けて繁盛
五ついつでも
養生がだいじ
六つ村里しだいに繁盛
七つ何でも
稼ぐがだいじ
八つ山には草木が繁盛
九つ子ども衆は
学校がだいじ
十で豊年(とよとし)五穀が繁盛
さてさておめでたい

(収録日 昭和54年8月7日)

解説

 数え歌形式の手まり歌である。うたわれている内容は、学校教育で昔あった修身の時間で教わるような堅苦しいものであり、はたして子どもたちがこの歌を喜んでうたいながら遊んだかどうか、ちょっと気にかかるところであろうか。他のところで同類の歌を聞いたことがないので、あるいはこれは、実際に学校で習った創作歌であって、伝承歌ではないのかもしれない。
 ただ、子どもというものは、意外に柔軟な思考を持っている。彼らは学校で教わったものでも、巧みに自分たちの世界に取りいれ、喜んで消化してしまう。石見地方の三隅町で聞いた次の歌も、そのような一つである。

向う通るは生徒じゃないか
六つの年から学校通い
暑き夏の日も
また冬の日にも
雨の降る日も
風吹く日にも
いちど一日
不参をせずに
精を出して利発の娘
いつの試験も
みなほめられて
今じゃ生徒の第一番よ
それというのも
常平生に
人のいうこと
よく聞きわけて
朝まタベも
わがまま言わず
父母の教えを
内には守り
外は教師のさとしを
受けて
習い覚えし 修身行儀
親の名までも
世間(しょけん)でほめる
ほんに孝行娘だや
あやかいな
あやかいな(千上キセさん・明治19年生)

 この類歌は、以前はかなり好んでうたわれていたようで、高齢の方から各地でよく聞かされた。うたってくださった千上さんにしても、子ども時代は明治の半ばであるから、当時にあって、この歌の人物は、模範生としてのあこがれの的になっていたものであろう。現代の子どもたちからはちょっと考えられないような律儀な詞章である。
 そのようにして今回の数え歌を考えれば、やはり、以前の隠岐地方の子どもたちによって、それなりに好んでうたわれていたものといえそうなのである。