向こうの山に猿が三匹とまって・手まり歌(松江市美保関町七類)
語り(歌い)手・伝承者:森脇キクさん・明治39年生
向こうの山に猿が三匹とまって
先の猿ももの知らず
後の猿ももの知らず
中の子猿がようもの知って
子どもたち 子どもたち
花折り参りましょう
花はどこ花
御堂の前の桜花
一枝折っては
パッと散る
二枝折っては腰にさし
三枝の先から
日が暮れて
今夜はどこで泊(とう)まらか
トンビのお宿で宿借りて
むしろは短し夜は長し
夜明けに起きて空見たら
餅ごのような姉(あね)さんが
金の盃 手に持って
金の雪駄をちゃらちゃらと
一杯参れ 百取ろう
二杯参れ 二百取ろう
三杯目に魚取ろう
(収録日 昭和45年7月26日)
解説
松江市美保関町七類でうかがった愉快な歌である。三匹の猿が出てくるところは、鳥取県東伯郡三朝町大谷の山口忠光さん(明治40年生)からうかがった歌と同じであるが、鳥取県の方は、猿の活躍ぶりがかなり違っている。
向こうの山を猿が三匹通って
前の猿はもの知らず
後の猿ももの知らず
中の中の子猿めが
ようもの知って言うことにゃ
日本国(にっぽんごく)ぅ歩いて
イワシを三匹拾って
焼いて食っても塩辛し
煮いて食っても塩辛し
あんまり喉が乾くので
前の川へ飛び込んで
水ぅ一杯飲んだらば
あんまり腹が太うて
かなきどうりぃ(鐘つき堂の訛り)
泊まって
屁をぶるぶるっとひったら
大きなやつは笑うし
こまいやつは泣くし
泣くな笑うな
明日(あした)の市(いち)に焼き餅買ぁたるぞ
焼き餅の中から
汁が出て言うことにゃ
紅つけるがどこ行く
白粉つけてどこ行く
にょんにょんに参る
にょんにょんの道に
あっちいちろり
こっちいちろり
ちろ兵衛の子どもが
杓(しゃく)持って遊ぶ
どの杓ぅどがあする
その杓はいくらやええ 麦かける
その麦ゃどがあした 鶴と亀が食った
鶴と亀はどーがした
峰を越え山を越え
さんばら松ぃ止まった
松江市美保関町七類の歌は、三匹の猿が、子どもたちに呼びかけて花を折りに出かけるのである。そしてその夜は宿に泊まり、翌朝、奇想天外な発展を示しているのであった。
「向こうの山」から出てきた三匹の猿の歌は、各地でいろいろに変化してうたわれているのである。