お手ふって行きましょや・子守歌(隠岐郡隠岐の島町中町)

語り(歌い)手・伝承者:渡辺延子さん(昭和2年生)

お手ふって
行きましょや
米子に饅頭買いに
行きましょや

(収録日 昭和46年7月26日)

解説

 子どもをあやすときにでもうたった子守歌であろうか。
 内容から考えると、赤ん坊の手をにぎって、この歌をうたいながら、その手を振り動かすと、赤ん坊は喜んで満面で笑顔を作る。
 母親もまたそのような赤ん坊がかわいくて、それをくり返す。そのようなのどかな情景が浮かんでくるようである。
 ところで、この歌は隠岐郡隠岐の島町旧西郷地区で聞いたものである。
 今でこそレインボーなる高速船で一時間もあれば、本土へ行くことも可能になったが、ひところ昔は、一晩船の中で夜を明かし、やっと本土へ到着するということも普通であった。もちろん反対に本土から隠岐地区へ行く場合も同様の苦労があった。
 そのような時代を頭に入れて考えると、米子へ出かけることは、地方の者がちょっとした都会へでも行くような、晴れがましい気分だったことだったのでであろう。そのような気持ちがこの歌の基盤流れているのである、したがって「米子に饅頭買いに、行きましょや」というのは、実に華やかなすてきな出来事なのである。
 さて、子守歌であるが、このように子どもに語りかけるようにうたわれる「あやし歌」の他に、子守りの労働歌と命名すればよいような作業歌としてのものもある。
 そのような歌として松江市竹矢町で聞いたのを三つ紹介しよう。いずれもうたってくださったのは、角田タケさん(明治34年生)である。

おぞや きょうとや
他人はおぞや
当たりゃ手にたつ
恐ろしや

 「おぞや」は「恐ろしことだ」の出雲方言。「きょうとや」も同様である。歌の大意は、他人に辛く当たると、仕返しがひどいというのであろうが、直接には言わないものの、子守りに辛く当たれば、赤ん坊に仕返しがくる、と当てこすっているのであろう。

辛い勤めも当月限り
情けありゃよし
なけにゃよし

 子守りの年期切れは、この月末であり、雇い主の仕打ちが、辛くとも辛くなくとももうすぐで終わるのだ、と年期を待望する子守り娘の気持ちを歌い上げているのである。

かわいがらねば
ねんごろせねば(しょにも)
ひとちゃあなたの
心から

 子守りに対して、親切にしなければならないけれども、それはひとえにあなたの心がけ次第です、としている。
 これらの歌からは、子守りに雇われた娘たちの、切なる願いや祈りが秘められており、「遊ばせ歌」とは違った一面を示しているのである。