一は橘 二は杜若な・手遊び歌(江津市波積南)

語り(歌い)手・伝承者:嘉戸幸子さん・昭和7年生

一は橘(たちばな) 二は杜若(かきつばた)な
三で下がり藤 四で獅子(しし)牡丹(ぼたん)な
五つ井山の千本桜な
六つ紫 桔梗(ききょう)で染めてな
七つ南天 八つ山桜な
九つ紺屋で
色好く染めてな
十で殿様
お馬にお乗りんこ
お駕籠にお乗りんこ
お八重が芽を出して
花ちゃんが花盛り
ハサミでちょんぎりと
ああ えっさっさ

(収録日 昭和35年10月2日)

解説

 これを手遊び歌として分類しておいたが、他の地方では手まり歌にうたわれることも多い。江津市のこの歌は、当時、「何の気なしにうたいます」とうかがってはいたが、前半部は「せっせっせ」とお互い向き合って、手の平を詞章とともに合わせ、後半部分では詞章に従って動作をしてゆくときにうたっていたと考えた方が自然なので、ここでは手遊び歌としておいた。
 歌の内容は、説明するまでもなく、数え歌形式であり、ほとんどが華麗な花尽くしで構成されている。また、「お八重が芽を出して」からは、本来、別な歌だったのが、くっついたものと考えられる。類歌はたいてい十までで終わっているものが多い。
 ところで、出雲市大社町では、最後にジャンケンになるとして、次のようにうたっていた。

一は橘 二は杜若かね
三は下がり藤
四にゃ獅子牡丹ね
五つ井山の千本桜かね
六つ紫 色好く染めたかね
七つ慣れても
八つ山吹
九つ紺屋かね
十で殿御さんが
お駕籠に乗ろうかね
ゼンゼがのうて
乗られません(ジャンケンになる)
(手銭歳子さん・大正7年生生)

 鳥取県米子市富益町では「手まり歌」として次のようにうたわれている。

一で橘 二で杜若ね
三で下がりブシ(藤)
四で獅子牡丹ね
五つ井山の千本桜ね
六つ紫色よく染めてね
七つ南天(なるてん)
八つやの娘ね
九つコンペを
色よく染めてね
十で殿御さんを
お馬に乗せてね
ちょと一貫ついた(松下ゆきこさん・明治34年生)

 これは最後の「ちょと一貫ついた」の詞章から、手まり歌であることがはっきりしている。
 また、歌の内容からしてみても、これは当然、江戸時代には存在していたと考えてよさそうに思う。しかし、文献を当たってみても、なぜか古い書物からはまだ出会わない歌なのである。