大黒さんどま よいもんだ・手まり歌(仁多郡奥出雲町代山)
語り(歌い)手・伝承者:森山庫市さん(明治29年生)
大黒さんどま よいもんだ
一に 俵踏んまえて
二には にっこり笑うて
三にゃ 酒造って
四つ 世の中よいように
五つ いつまで楽すんで
六つ 無病(むんびょう)息災に
七つ 何事ないように
八つ 屋敷を広めたて
九つ ここらへ蔵を建て
十で とんと納まった 納まった
(収録日 昭和43年7月9日)
解説
神棚の上に米俵を踏まえて、ふくよかな姿で納まっておられる大黒さまを、めでたくうたいあげた手まり歌である。
以前はよくこの類の歌はうたわれていたようであるが、最近はあまり出てこないのも、時代の流れなのかも知れない。
大黒さまは福の神であり、恵比寿さまと並んで、中世以降、台所の守護神として信仰が広まったとされるが、いつの間にか大国主命と混同さるようになったようである。それはともかくとして、再び歌に返って眺めてみたい。
縁起を担いで大黒さまを歌にしたのは、わらべ歌だけではなかった。石見地方の邑智郡邑南町阿須那では、次のように田植え歌としてうたわれていた。
大黒様という人は
背は低けれども力持ち
ヤーレー左にゃ袋
右にゃ槌
俵踏まえし大黒様が
何と拝むや大黒様を(斎藤秀夫さん・大正2年生)
また、昭和38年(1963)夏のこと、広島県豊松村南郷で聞いた盆踊り歌では、ちょうど最初に紹介した手まり歌の類歌とでもいうような姿で残されていた。
どうやらこいつも夜更けとなれば
次はてんがらこに
アラサ控えまして
アーアラサコラサット何を申そか
お話しましょか
そいつこの子は
よいこたぁ知らん
そこで思案に暮れました
数え歌でも
やりましょか
大黒さんで上(あが)ります
一に俵を踏んまえて
二にはにこにこ
お笑いなさる
三にゃ酒を造られる
四つ夜昼良いように
五つぁいつもの
ごとくなり
六にゃ無病(むんびょう)息災に
七つ何事ないように
八つじゃ屋敷を
広めましょ
九つここで蔵建てて
十で所にとっくり納めましょう
一ちょ兄(あん)やに頼んだ(伝承者の氏名不詳)
このようにして眺めてみると、子どもの世界の手まり歌が、大人の世界の盆踊り歌にまで、影響を与えていることが分かるわけで、交流の幅の大きさに、またまた興味の尽きないものを覚えるのである。