正月さん 正月さん・歳事歌(隠岐郡隠岐の島町犬来)

語り(歌い)手・伝承者:中沼アサノさん(明治39年生)

正月さん 正月さん
どこまでござった
大満寺の腰まで
みやげは何かの
椎(しい) 榧(かや) かち栗
みかん こうじ たちばな
ようけ持ってござった

(収録日 昭和56年(月日不詳))

解説

 正月を迎える楽しい気持ちを隠岐島後の子どもたちは、このようにがうたっていた。大満寺というのは、島後地方の最高峰である大満寺山(606・6メートル)のことである。つまり正月の神トシトコさまは、平素は山に住んでおられ、ハレの日である正月には里に下って来られるというのである。旧西郷町中町では、やや違っており、次のようであった。

正月さん 正月さん
どこまでござった
地蔵院のかどまでござった
みやげは何かの
椎 榧 かち栗
みかん こうじ たちばな
ようけ持ってござった (渡辺のぶ子さん・昭和2年生)

 続いて出雲地方のもの。ここでも神は三瓶山と山に住んでおられることが分かる。

正月っつあん 正月っつあん
どこからおいでた
三瓶の山から
みの着て 笠かべって
ことことおいでた

正月っつあん 正月っつあん
どこからおいでた
とうふの下駄はいて
とうしんの緒立てて
線香の杖ついて
ことことおいでた

正月っつあん 正月っつあん
どこからおいでた
三瓶の山から
羽子板腰にさいて
矢壷を杖について
ことことおいでた
 ー石塚尊俊他編『出雲の民話』(昭和33年・未来社刊)ー

 浜田市三隅町東平原のもの。

正月じいさん来ました
竹馬に乗って
タコを背中にかついで
にこにこ笑ってきました(九十九クウさん・明治24年生)

 正月を迎える気持ちは、子どもたちの世界でもいっそう強く、それは東くめの詩に滝廉太郎の作曲した、かの有名な「お正月」の歌からも想像できる。

もういくつ寝ると お正月
お正月には たこあげて
こまをまわして 遊びましょう
はやく来い来い お正月

 この歌は明治34年7月に発表されているが、もとよりそれ以前にも、子どもたちが正月を心から待ちこがれていることを示す素朴な歌は、各地に存在していたのである。その一つが冒頭の歌である。