隣のおばさん・お手玉歌(松江市島根町小波)
語り(歌い)手・伝承者:中村加代子さん(昭和24年生)
隣のおばさん
箒(ほうき)をください
一本 二本 三本 四本 五本 六本
(いくらでも続ける)
(収録日 昭和36年10月22日)
解説
「隣のおばさん、箒をください」と呼びかけて、あとは一本、二本…」とお手玉が失敗するまで続けていけばよいだけのことである。
「隣のおばさんjにしても「箒をください」にしても、まことにありふれたことばである。予どもたちが、そのまわりの世界を見回わして別に力むこともなく、そこにあった材料を組み合わせて作っただけの簡単なわらべ歌という感じがする。
そして「隣のおばさん」にあたりまえの親しみを抱く子どもたちの無意識の承認の中で、この歌は生きてきたのであろう。
それにしても目の前に転がっている、ごく平凡なものを、巧みに詩にしあげる子どもたちの才能の柔軟さに、小さな驚きを覚えるものである。筆者はこの歌を、ここ島根県で一例だけ収録したにすぎないが、この歌の自然さから推して、案外各地にも似たような発想の歌が伝わっていると思えてならないが、いかがなものであろうか.
ところで、「一本、二本…」とお手玉が失敗するまで、限りなく数詞を重ねて行く方法は、他の歌にも見られるもので、江津市波積南のお手玉歌に、次のものがある。
ダンノセ ダンノセ
一ちょかけ
ダンノセ ダンノセ
二ちょかけ
ダンノセ ダンノセ ダンノセ
三ちょかけ
ダンノセ ダンノセ ダンノセ
ダンノセ
四ちょかけ
ダンノセ ダンノセ ダンノセ
ダンノセ ダンノセ(以下いくらでも続ける)(嘉戸幸子さん・昭和5年生)
この場合は「隣のおばさん…」よりやや複雑な構造を持っており「一ちょかけ、二ちょかけ…」と続ける一方「ダンノセ」のことばも一つずつ増やさなければならず、うたう子どもでもなかなか神経を使うようある。
松江地方のものとして、石村春荘氏の『出陰路のわらべ歌』(昭和42年・自刊)によれば、明治末期に妹さんが歌われたもので、
たんのし たんのし
一丁かけ 二丁かけ 三丁かけ
(以下十丁かけまで)
というのを紹介しておられるが、もとより同類で、氏の著書の「十丁掛」で終わっているのは、あるいはダンノセがそうであるように、いつまでも続けられる限りは続けてよいものではなかったかと思えるのである。
それはともかく。「隣のおばさん」にしても「ダンノセ」、あるいは「たんのし」にしても、単純な言葉であるが、それを自由に使いこなす子どもたちの着想力の素晴らしさに、改めて感心してしまう筆者なのである。