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朝はか ねをやれ(田植え歌・隠岐郡海士町保々見)

語り(歌い)手・伝承者:徳山 千代さん・1904年(明治37年生)ほか

朝はか ねをやれ
トビがやおに 鳴いたとな

早乙女の上手よ
下がるこそ上手よ

嫁をしょしるなかいに
縄でワラぁ忘れた

苗がなけらにゃ とっぱなせ

婆の言やるも もっともだ

馬鍬(まんぐわ)つきよしぇて
こぉをあらあらと

編み笠のちょんぎりが
わしに女房に なれと言うた

腰が痛けりゃ のおさえて
のおさえて のおさえて

日は何どきだ 七つの下がり

日ぐらし鳥が  笠のはた回る

上がりとうて しょうがない
恥のこたぁ思わぬ

(収録日 1985年(昭和60)8月)

解説

離島である隠岐島の島前地区、海士町に伝わる田植え歌である。どういうわけか本土の各地で広く聞かれる田植え歌とはかなり違っている。それでは同じ隠岐島の島後地区の歌と似ているかといえば、これまた必ずしも似ているとは言い難い。
 そしてこの海士町の歌は、同じ島前地区でも聞いたことはなかった。歌の内容は田植えの状況を描写したものが主体となっている。
 続いて音節数を見てみよう。最初の句は、

朝はか…………………4
音(ね)をやれ…………4
トビがやおに…………6
鳴いたとな……………5

このように4465調である。次の句は、

早乙女の………………4
上手よ…………………4
下がるこそ……………5
上手よ…………………4

同様に以下、音節数を述べると、「嫁をしょしるなかいに…」は334334、「なぎがなけらにゃ…」は344、「婆の言やるも…」も344、「馬鍬…」は3535、「編み笠の…」は443433…。これより後は省略するが、ここで述べたいのは、必ずしもそれぞれのスタイルが一定ではないということである。
 民謡の成立した時代を判定することは、なかなか難しい問題であり、現段階での決定的な判断は避けなければならないが、ともかく本土の田植え歌との関連は、あまり感じられない。これらの歌は独自に当地で発達し、当地の人々によってうたい継がれてきたもののようである。