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朝かね ねを入れ(田植え歌・隠岐郡隠岐の島町西郷)

語り(歌い)手・伝承者:木下 カネさん・1902年(明治35年)生

朝かね ねを入れ
トビがねを入れて

とんとんトウギリスは
何を持って来たよ

唐升にとう添えて
俵持って来たよ

苗をば何と取る
元へ手を入れて

うらをばなぶかせて
元へ手を入れて

昼飯がござるやら
赤い帷子(かたびら)で
ぴらりしゃらりと
赤い帷子で

(収録日 1985年(昭和60)8月7日)

解説

前回は、同じ隠岐島でも島前地区の歌だった。今回は少し離れた島後地区のそれである。ここでは今は隠岐の島町となっているが、平成の町村合併以前は西郷町のほかに五箇村、都万村、布施村の四つの町村が陸続きである点に特色がある。それに対して島前地区は、三町村がそれぞれ別の島なのである。
 田植え歌を見た場合、島後地区では陸続きの関係か、島前地区のようには町村別の違いをあまり感じなかった。
 本来、田の神に捧げる田植え歌は、午前、午後、夕方それぞれに区別があり、うたう順番も決まっているが、多くのところでは、すでにこのような細かいことは分からなくなっている。
ここに紹介したのは、そのような中でも、比較的正確に順序を踏まえて教えてくださった歌であり、それだけに貴重である。そしてこれらの歌は、さきの区分でいえば、いずれも午前中にうたわれるものである。また、最初にある「朝かね、ねを入れ、トビがねを入れ」は、前回紹介した海士町の「朝はか音(ね)をやれ、トビがやおに鳴いたとな」と、どこか共通した内容であることを感じさせる。けれども「ね」がどういう意味なのか、もうはっきりしたことは分からなくなっている。
 また、「とんとんトウギリスは、何を持って来たよ」とある詞章は、島後地区ではよく聞くものの、島前地区にはまったく残されていないものである。このトウギリスについてもよくは分からないが、縁起のよい鳥ででもあろうか。したがって後に続くように「唐升にとう添えて、俵持って来たよ」と豊作をもたらす内容になるのであろう。
さらに「昼飯がござるやら…」の歌は、これをうたうことにより、そろそろ昼食になるという合図になる。これは本土の歌にも似た詞章がある。例えば、邑南町矢上地区の歌を見てみよう。

ひるまもちの ござるやら
赤いかたびらでな
ひらりしやらりと 赤いかたびらでな(『上大江子本』)