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こちの嫁御さんはどこ育ち(苗取り歌・安来市広瀬町布部)

語り(歌い)手・伝承者:小藤宇一さん・1964年(昭和39年)当時68歳 山脇ステ子さん・54歳

ヤーレー
こちのナァ嫁御さんは どこ育ち
ヤーレ稲のナァ おらぼのナ のぎ育ち

ヤーレー
こちのナァ婿さまはどこ育ち
ヤーレーあれはナァ ご城下のナァ 町育ち

(収録日 1964年(昭和39)8月13日)

解説

苗取り歌は、田植え当日、苗を取って稲を植える早乙女に渡す作業のさいにうたう歌をいう。これに対して植えるときにうたわれるのを植え歌と称し、両者を合わせて普通は田歌と呼んでいる。
また、苗取り歌にも長短二種の歌があり、ここに紹介した苗取り歌は、短い歌の方である。仁多郡や能義郡の山間部で、同類はうたわれており、実際には「ヤーレー」とか「ナァ」とかの囃し言葉が入るので、雰囲気を味わっていただくために、それを加えておいた。
 歌の前半部は、音頭取りの男性が、後半部は早乙女がうたう。ここで囃し言葉を省いて音節を調べると次のようになる。

こちの嫁御さんは…9
どこ育ち……………5

 ここまでが音頭取りがうたい、田主の嫁は、どこで育ったかと問うている。それに対して以下、早乙女がその答えをうたう。

稲のおらぼの………7
のぎ育ち……………5

 「おらぼ」は末端を意味している。「のぎ」は、はっきりしないが、濁らずに「のき」とすれば、内側のことなので、この言葉を当てはめて見れば、稲の末端の内側で育ったということになる。したがって、稲のように大切に外へも出さず内側で育てたという嫁を褒めた内容になっている。そうして音節は合わせて九五七五となっている。
 これに対して、次の歌は婿についてのものである。これも同様に音節数をみておく。

こちの婿さまは……8
どこ育ち……………5
あれはご城下の……9
町育ち………………5

初めは音頭取り、「あれは…」から早乙女たちのうたう部分になる。そして嫁同様、婿の育ちをご城下の町育ちであると、やはり褒めている。農村の田植えでありながら、婿が町育ちとはどういうことなのだろうか。はっきりいって、この表現から考えられるのは、町家から迎えた婿を誇っているのである。
「士農工商」の身分制度の厳しかった時代、その枠を越えて縁組みがなされたところに、農民の誇りが垣間見られるとでもいうのであろうか。