• ホーム
  • 民話館
  • 縄手走る小女房(苗取り歌・仁多郡奥出雲町上阿井)

縄手走る小女房(苗取り歌・仁多郡奥出雲町上阿井)

語り(歌い)手・伝承者:奥出雲町上阿井 山田福一さん・1964年(昭和39年)当時54歳

縄手走る小女房
長い髪をさばいて

紅葉山の子ワラビ
摘めど籠に溜まらぬ

(収録日 1964年(昭和39)8月11日)

解説

 苗取り歌でも「長い歌」と呼ばれており、なぜか出雲地方の一部にしか認められないようである。わたしはこの歌を奥出雲町(旧・仁多町、横田町)、安来市広瀬町で聞いている。
 この詞章を文節で見てみると、次のようになる。

縄手(なわて)走る……………6
小女房………………4
長い髪を……………6
さばいて……………4

「小女房」は、「こにょんぼ」と読む。だから4音節になる。次の歌も同様である。

紅葉山の……………6
子ワラビ……………4
摘めど籠に…………6
溜まらぬ……………4

メロディーは実にゆかしくわびしい情緒に満ちている。わたしは古風を留めている歌だと考えている。
 また、詞章の意味であるが、「縄手走る小女房」とは、いかなる情景であろうか。縄手というのは、「畷(なわて)」とも表記し、田の中の細道とか、あぜ道のこと。あるいは真っ直ぐな道をいうのであるから、そこをどういう理由かは分からないが、かわいい女性が長い髪を手でさばきながら、急いで走っているという姿をうたっている。ドラマを秘めた内容もどこか古風さを感じさせる。
 また、もう一つの「紅葉山…」の歌であるが、紅葉山というのは、秋になって紅葉の美しい山かと思いがちではあるが、後の「子ワラビ…摘めど…」の詞章が気になる。ワラビの摘める季節は春であり、したがってこの「紅葉山」というのは、紅葉の季節になれば、一段とそれで映えるであろうけれども、固有名詞と見た方がよいのではなかろうか。そうして、これまた一生懸命にワラビを摘むのであるが、なかなか籠一杯になってくれないという嘆きが、言外からにじみ出ている。そこから思わずも溜息(ためいき)が漏れてきそうな気配が隠されている。
 ところで、このような六四調の歌は、あまり種類はみつからないようであるが、もう一つ、よくうたわれている次の歌がある。安来市広瀬町布部で聞いたものである。

高い山の葛籠(つづら)(つづら)を
引けやおろせ葛籠を
(小藤宇一さん・1964年当時68歳)

これは何かの作業をしているさい、大勢で葛籠を下へおろすよう催促している風景が目に浮かんでくる。いずれもかつての農山村の生活をうたっているのであろう。