臼にさばらば歌出しぇ女(臼挽き歌・仁多郡奥出雲町大呂)
語り(歌い)手・伝承者:横田町 安部イトさん・1896年(明治29年)生
臼にさばらばナー
ヨイナ ヤレナー ヨイナー
歌出しぇ女(おなご)
歌は仕事の ヨイナー ヤレナー
ヤレ 花だもの
ハー 家の親方は
ヨイナー ヤレナー ヨイナ
団子か餅か
餅は餅だが ヨイナー ヨイナー
ヤレ 金持ちだ
(収録日 1972年(昭和47)4月26日)
解説
ヤレナーとかヨイナーなどの囃し言葉を除くと、詞章は7775となり、近世民謡調になる。江戸時代中期から全国的に広まったスタイルである。どういうものかこの形は収まりがよいからだろう、多くの民謡に採用されているのである。安来節、貝殻節、キンニャモニャ、どっさり節などの座敷歌はもちろん、関の五本松もまたこの形の字余りと考えられる。
ところで、ここに上げた労作歌に属する臼挽き歌は、詞章が二種類ある。特に一番、二番というわけではない。そのときの気分に合わせて、適宜気に入ったものがうたわれている。
初めの「臼にさばらば」の方は、まさに臼挽き歌専用の詞章であるので、他の作業に歌われることはないが、次の「家の親方」の方は、別に臼挽き専用でなくともかまわない内容なので、他の作業のおりでもいくらでも使うことができた。例えば田植え歌とか餅つき歌、それに労作歌ではなく、盆に踊られる、いわゆる踊り歌に分類される盆踊り歌などにもうたわれることがある。
そうして見れば、初めの歌は、臼挽きという作業のなくなった今、すっかり影を潜めてしまったが、次の方は、縁起の良い内容から、座敷歌に姿を変えて、ときおりは現在でもうたわれている。
そのようなことを頭に置きながら、他の地方で歌われていた臼挽き歌の詞章を挙げておこう。
臼を挽かりゃば じゅんどに挽かれ
臼のがく挽きゃ 末ゃ遂げん
飯石郡飯南町赤名出身 山下千代子さん・1915年(大正4年)生臼や回れや
挽き木や挽きゃれ
臼の早挽きゃ 末ゃ遂げぬ
(江津市跡市町 古川シナさん・明治24年生)
例えば、このあたりは、確実に臼挽き歌専用であった。しかし、臼挽き歌としてうかがった次の歌は、他の労作歌としても使えるものである。
丸い卵も切りよで四角
ものも言いよで 角が立つ
江津市桜江町勝地 稲田ナカノさん・1893年(明治26年)生