山を崩いて田にしましょ(盆踊り歌・隠岐郡隠岐の島町油井)
語り(歌い)手・伝承者:藤野リツさん・1897年(明治30年)生・他
ハァちょいと山崩し
山を崩いて田にしましょ
ハァちょいと山崩し
山を崩いて田にしましょ
盆の十六日は 踊りしゃげ
子持ち姿も出て踊れ
盆の十六日は 踊りしゃげ
子持ち姿も出て踊れ
(収録日 1977年(昭和52)7月30日)
解説
「山崩し」と称する盆踊り歌である。命名は最初に挙げた歌の詞章「山を崩いて…」から来ていることは間違いない。盆踊りの歌の詞章にまで、田を広げ、何とかして稲を少しでも多く作りたいという、日常感じている切実な気持ちが述べられており、しかも、それを盆踊り歌の名前にまでしてしまっているところに、昔の農民の願いが垣間見られ、そして素朴ながらも、思ったところをそのままストレートに出しているのが分かる。
元々、盆踊りは新盆の霊を慰めるために、該当する家の前で踊るとされている。そして、先祖を供養する意味もこめて、集落の広場で、そこの集落の人々が、老いも若きも男も女も心を込めて踊るのである。
さて、この歌は都万村の油井地区で聞いたものであるが、同じ隠岐であっても海を隔てた島前の西ノ島町にも同類があり、やはり「山崩し」と呼ばれている。次に紹介しておこう。赤之江地区で聞いたものである。
ヤーレ 山崩しぇ
ハラシェー
山を崩いて 田にしましょ サアー
ヤーハートナー
ヤーハートナーイー
小桜 シゲさん・1893年(明治26年)生
この詞章から見ても、同類であると分かる。ところで、同じ「山崩し」と言われながら、詞章ではまったく一般的なものもある。同じ小桜さんから、このとき教えていただいたものを、囃し言葉を省略して挙げてみる。
今年ゃよい年 穂に穂が咲いて
道の小草も米がなるおまえ百まで わしゃ九十九まで
共に白髪の生えるまで届け届けや末まで届け
末は鶴亀 五葉の松親を大切 (たいしぇつ)黄金の箱に
せめて持ちたや いつまでも
これらの詞章を眺める限り、いずれもがいわゆる7775の近世民謡調として、各地の労作歌や酒宴の席の座興に、どこででもうたわれている馴染みの歌なのである。