さらば行きます(長持ち歌・松江市本庄町)
語り(歌い)手・伝承者:田村 善実(よししか)さん・1961年(昭和36年)当時55歳
さらばナーア 行きます
どなたもさらば
長のナーアお世話に アーなりましたがーヨ
さらばナーア 行きます
どなたもさらば
今度ナーア来るときゃ アー客で来るがーヨ
(収録日 1961年(昭和36)10月13日)
解説
嫁入りで娘が家を出るおりうたわれる長持ち歌である。以前は嫁として、これまで育った実家を、人足の担ぐ駕籠に乗って出ていった。この長持ち歌は家を出るときだけでなく、道中、歌い手によってうたいつづけられ、婿の家に入るときにも受け渡しの歌があったりした。いずれも嫁になる娘や実家の両親、婚家先の人々に気持ちが込められていて、何とも言えない。
同じ伝承者からうかがった到着したときの歌など、囃し言葉を略して紹介しておく。次の歌は、婚家に到着したときうたわれる。
蝶よ花よと育てた この子
今宵貴方に 差し上げます
婚家では、それに呼応して待ち歌が出る。しかし、実際はわざとじらしてなかなか待ち歌を出さない。そうすると双方で歌の掛け合いになった。やがて婚家の方から待ち歌が披露される。
門松ばかりが 松ではないよ
嫁御待つのも 待つじゃわいな
この歌が出てから、初めて婚家へ上がることができる。そして荷物もまた婚家へ上げるが、それが済むと、次の歌。
嫁御ばかりか お荷物までも
奥の一間に 収めます
これでめでたく嫁入り道中は終わりになる。
この長持ち歌は、地方によっては「馬子歌」とか、「宿入(しゅくい)(しゅくい)り」、「ナゴヤ」「祝言歌」などとも称され、詞章についても、いろいろ存在している。柿木村では、
ここは大坂(だいさか) 四十二の曲がりを
こけずまるげず 事やりましょう
担(かた)ぎつけたよ この長持ちを
これは道中歌であろう。また到着したら、荷物を花嫁の前に置き、次の歌をうたった。
これの座敷は めでたな座敷
鶴と亀とが酌取るよ 嫁さん静かに
大田節蔵さん・1895年(明治28年)生
まだまだ類歌はあるが、紹介しきれない。