めでためでたの若松様は(神楽歌・隠岐郡隠岐の島町布施)
語り(歌い)手・伝承者:灘部 修作さん 1948年(昭和23年)生、《 》内は 升崎 勝吉さん1932年(昭和7年)生
めでためでたの 若《松ョ様は》
ハー 枝も栄える 葉も《ヤーレ ショーオー 茂る》
布施の姉らと 春(かす)《日(うが)のョー 森は》
ハー ほかに木〔気〕はない 松〔待つ〕
《ヤーレ ショーオーばかり》
届け届けや末《えまでョー届け》
ハー 末は鶴亀 五葉《ヤーレ ショーオーの松》
布施はよいとこ 三(み)《ぃつの ョー 谷に》
ハー千歳(ちとせ)変わらぬ杉 《ヤーレ ショーオーの色》
(収録日 1985年(昭和60)8月9日)
解説
これは隠岐の島町布施にある大山神社の神事でうたわれている。歌は出だしを単独で一人がうたい出し、途中から別な者が後半の詞章を引き受ける形でうたっている。
ここの神様は、暴れることが大好きだとかで、ご神体の杉に蛇体を巻き付けようと、マサキの蔓を運ぶおりに、つい暴れるので、それを鎮める意味にもうたわれると、当地では説明されている。そしてこの歌の名前を「神楽歌」と称するのである。
さて、詞章であるが、初めの「めでためでたの若松様は、枝も栄える葉も茂る」については、一般的なもので、どこの地方でもおなじみである。いわゆる縁起の良い内容で、神事にうたうのにも適しているといえよう。
二番目の詞章の中の「春日」の地名であるが、これは大山神社のある所である。そして「ほかに木はない、松ばかり」は、「春日の森」の木の種類をいっているが、そればかりではなく、むろん、「布施の姉」の語句にも掛けられ「ほかに気はない、待つばかり」と、当地の女性の慎ましやかさを、それとなくうたい込んでいる。
また、三番目の「届け届けや末まで届け、末は鶴亀五葉の松」の詞章も一般的で、縁起の良い内容となっている。
最後の「三つの谷」とあるのは、旧布施村内にある北谷、中谷、南谷の三個所を指している。そして「千歳の杉」であるが、これは大山神社のご神体である杉のことをうたっている。また、はじめにも述べておいたが、この杉にはマサキの蔓を蛇体の意味で、七巻き半ほど巻きつけるため、そこまで出かける山登りのおり、道行きとしてうたわれている。
なお、蔓を木に巻くときには、この神楽歌ではなく、別な種類である「木遣り」なる歌をうたっている。ただ、ここでは紙数の関係で、次回に紹介したい。