ショーガイナー(盆踊り歌・隠岐郡知夫村仁夫)

語り(歌い)手・伝承者:中本マキさん・1906年(明治39年)生

しょうがい婆(ばば) 焼き餅好きで
今朝の茶の子に 百七つ
ショーガイナーエー
百七つ
今朝の茶の子に 百七つ
ショーガイナーエー

(収録日 1985年(昭和60)8月23日)

解説

 なかなか愉快な内容の盆踊り歌である。この歌を「ショーガイナー」というのは、途中に囃し言葉として「ショーガイナーエー」なる語があるからだと思われる。
 隠岐地方では、焼き飯という、少し変わった握り飯風の食べ物がある。これは握り飯の上辺に、この地方独特の小醤油と称する味噌を塗り、それを鉄器にかけ、下から火を当て、ほのかに焦げる程度にしたものである。案外、この歌でうたわれる焼き餅なるものも、それと関連したもののように思えてならない。
続いて「茶の子」であるが、これは朝食と昼飯の間に摂る食事のことを言っている。現在でこそ一日の食事は、朝、昼、晩と三回摂るのが常識のように考えられているが、少なくとも第二次世界大戦までの農村では、五回とか、農繁期では六~七回も摂るのが普通だった。朝食と昼飯の間の十時頃に摂る食事を出雲地方や隠岐地方では「茶の子」と称し、石見地方では「小(こ)昼(びる)(こびる)」と呼んでいた。
 ところで、主人公のしょうがい婆さんは、よほど焼き餅が好きなようで、茶の子に百七つも食べたという、なかなかの大食家であり、そこをからかうように、この詞章ができているところが愉快である。
 大人の盆踊り歌に、このような詞章が使われているのであるが、実は似た歌が手まり歌として存在している。鳥取県西部の西伯郡岸本町では、

源が婆(ばば)さん 焼き餅好きで
宵にゃ九つ 夜食にゃ七つ
けさの茶の子にゃ 百七つ
  西賀世智子さん・1912年(大正元年)生

 また、境港市でも、

そこを通るは お千でないか
お千ちょと来い もの言うて聞かしょ
われが伯母さん 焼き餅好きで
ゆんべ九つ 夜食に七つ
けさの茶の子に百七つ
  浜田泰子さん・1912年(大正元年)生

 最初の盆踊り歌と比べると、手まり歌の方が内容的には、いろいろな要素を取り込んでいる。そして両者ともよく似ている点も否定できない。
 このように思わぬところで、大人と子供の世界は交流している。