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一つになるから乳を飲む(相撲取り節・隠岐郡隠岐の島町加茂)

語り(歌い)手・伝承者:仲本 伝太さん・1892年(明治25年)生

ハアー エー
一つうたいましょう 相撲取り節をヨー
一つになるから乳を飲む
二つになるから箸を持つ
三つ四つは遊ばせて
五つになるから管をかく
六つで木綿を織りはじめ
七つで何でも せにゃならぬ
八つで縫い針仕立物
九つ紺屋にもらわれて
十で殿ごを持ちはじめ
十一なるかや明けの春
かわいい殿ごの帷子(かたびら)を
おんで紡いで枠に取る
枠に取ったはよけれども
あじぇの返しを まだ知らぬ
姑(しゅうと)さんにと手をついて
教えてください姑さん
おまえの親さや教えぬに
なぜにわたしが 教えよかえ
小姑さんにと手をついて
教えてください小姑さん
姑さんさや教えぬに
なぜにわたしが 教えよかえ
殿ごさんにと手をついて
教えてください殿ごさん
字算盤なら教えよぞに
あじぇの返しは わしゃ知らぬ
人の嫁ごになる者が
あじぇの返しを 知らぬとは
あじぇ竹へ竹で たたかれて
そこで嬢さんわんと泣く
奥の一間に駆けり込む
しゃんと結ったる 島田をば
根からすっぱり切り離し
殿ごの膝にと投げつけて
わしはここ出りゃ 花が咲く
後は乱れる ノーササ
アラ 嫁はないヨー
アー ドッコイサーノ ドッコイサ

(収録日 1980年(昭和55)8月9日)

解説

 相撲取り節は、隠岐では相撲大会や祭りなどの余興で、今でも盛んにうたわれている。
 歌の詞章はいろいろあるが、ここに紹介した歌は、娘の成長を読み込み、中心となっているのはその娘が嫁になった後の厳しい嫁と姑の確執をうたっているところにある。
 まず、歌は赤ん坊時代から始まり、数え歌形式で物語を進めてゆく。この歌では十歳で結婚しているから、今なら早婚である。そして11歳になったときから、問題が起きるのである。「あぜの返し」の縫い方を知らなかった嫁は、しかたなく姑に尋ねるが、「おまえの親さや教えぬに、なぜにわたしが教えよかえ」とけんもほろろの扱いを受ける。嫁はさらに小姑に聞くが、やはり同様の扱いである。頼みとする夫も決して温かく扱ってはくれない。そこで嫁は立腹し、捨てゼリフをを残して家を飛び出してしまうという内容になっている。この歌は手まり歌でもうたわれている。
 ところで、昭和九年に東明堂から刊行された『日本民謡の流れ』で藤沢衛彦は、類歌を引用されながら、この歌が江戸時代にうたわれていたと述べておられる。