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酒はよい酒酌取りゃ馴染みよ(桶洗い歌・浜田市三隅町岡見)

語り(歌い)手・伝承者:寺戸歳雄さん・1960年(昭和35年)当時・54歳

ヤレ酒はよい酒 ヤレ
酌取りゃ馴染(なじゅ)みよ
ヤレ飲まぬうちから
ノーオー
ヤレ酔いが出るヨー

(収録日 1960年(昭和)3月27日)

解説

 前回の出雲杜氏の歌に引き続き、今回のは石見杜氏の歌である。まず桶を洗うおりにうたわれていた「桶洗い歌」から紹介する。
 酒造りはなにしろ寒い冬の間の作業なので、その作業は辛かった模様で「もとすり歌」には、その厳しさをうたったものが多いが、この「桶洗い歌」では、なぜかそのような詞章は聞かなかった。以下、寺戸さんかたうかがった同類の詞章を囃し言葉を除いて上げておく。

わたしゃ一粒 流れちゃいやじゃ
共に入りたや桶の中

親の意見と茄子の花は
千に一つも仇もない

千里飛ぶよな 虎の子がほしや
便り聞いたり 聞かせたり

暑い寒いの言付けよりも
金(かね)の千両(せんりょ)も送りゃよい

 こうして眺めてみると、「わたしゃ一粒…」の詞章は、まさに杜氏歌としてふさわしいが、次の「親の意見と…」以下は、必ずしも杜氏歌独特の内容ではない。他の労作歌としてうたわれていることも多い。つまり、これはどの場合でも融通の利く転用歌なのである。七七七五のスタイルを持つ近世民謡調として、これらの詞章は
、いろいろな作業歌でうたわれていたのである。
 ところで、寺戸さんからは、杜氏歌である「もとすり歌」もうかがっているので、この機会にその詞章を上げておく。この方は朝の勤めの辛さもうたわれており、前回の出雲杜氏歌に通ずるものがある。

アラ酒屋 酒屋とヨー 好んでも来たが
アラ勤めかねます ノーオー この冬は
(以下、囃し言葉省略)

酒屋杜氏さんと ねんごろすれば
蔵の窓から粕くれる

宵にゃもとする 夜中にゃ甑(こしき)
朝の洗い場が辛うござる

朝の洗い場は 辛うはないが
一人丸寝が辛うござる

酒屋もとすりゃ もとが気にかかる
帰りゃ妻子が泣きかかる

 このように「もとすり歌」の方では、寒さの中で厳しい仕事のさまや、気になる家族のことがそれとなくうたい込まれているのである。