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やんさやんさで沖を漕ぐ船は(横槌歌・江津市桜江町勝地)

語り(歌い)手・伝承者:稲田ナカノさん・1893年(明治26年)生、江津市桜江町勝地 山田サキさん・明治27年生、江津市桜江町勝地 山田サキさん・明治27年生

やんさーナー
やんさでナー
沖ょ漕ぐ船がヨー
女郎がナーアー 招けばナー ヤンサ
磯に寄るヨー

伝承者 稲田ナカノさん・1893年(明治26年)生(収録日 1970年(昭和45)11月22日)

磯にどま寄んなヨー
女郎はなぁ化け物ナ
ヤンサ 色狐ヨー
(伝承者 江津市桜江町勝地 山田サキさん・明治27年生)

あさりナー
ながらやのナー
小庭の蘇鉄ヨー
やらよナー外からナ
ヤンサミサばかりヨー
小庭の蘇鉄ヨー
やらよナー外からナ
ヤンサミサばかりヨー
(伝承者 江津市桜江町勝地 山田サキさん・明治27年生)(収録日 1960年)

解説

 前回に引き続き桜江町八戸地区の勝地集落でうかがったもので、前回の麦の穂落とし歌とは違い、麦を槌でたたく作業のおりにうたわれる労作歌である。筆者が言語伝承を集め始めて四十年以上経つが、他ではまだ聞いたことのない珍しいものである。
 ところで、この歌の詞章を見ると、特に麦を槌でたたくのに直接関連する内容ではなく、船頭歌とでも称すればよいような文言が並んでいる。作業をするのに何もそれを特定するような内容ではなくとも、うたで調子を取って行えばそれでよいというわけであろうか。
 さて、穂落とし歌に比べるとこの横槌歌は、囃し言葉が多い。その部分を除いてみると、次のようになる。最初の歌だけ挙げておく。

やんさやんさで………7
沖ょ漕ぐ船が…………7
女郎が招けば…………7
磯に寄る………………5

 これまでにも述べてきたように、これは江戸時代に流行りだした、近世民謡調と称している7775調スタイルである。「沖ょ」は「おきょ」と発音し、「きょ」は拗音なので一音節であり、そこで
「沖ょ漕ぐ船は」は7音節になる。
次の歌は、前の歌の内容を受けた形になっており、前の歌を前半と考えれば、後半部分に該当する。自然発生的にうたわれ、作者は特定できないものの、このように自然発生的な民謡には、きちんと二つの歌で呼応が認められる場合もあり、民衆の巧まざる技法がうかがえるのである。
 なお、せっかく採集させていただいたので、もう一つの歌「あさりナー…」も挙げておいたが、残念なことには、この方は意味がはっきりしない。録音性能がよくなく、詞章の聞き取りが正確さを欠くのか、それとも伝承の過程で、元の詞章が転化してしまっているのかも知れない。