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ここのかかさんいつ来てみても(盆踊り口説き・隠岐郡隠岐の島町布施)

語り(歌い)手・伝承者:灘部修作さん・1948年(昭和23年)生

ここのかかさま いつ来てみても
朝は早起き 朝髪上げて
紺の前掛け茜(あかね)(あかね)のタスキ
掛けて浜へと 塩汲み行きゃる
沖の船頭さんが はらこら招く
招く船頭さんに さらし三尺もろた
帯に短しタスキにゃ長し
何にしょうかと 紺屋に問えば
そこで紺屋の 申するのには
一にで橘
二にでキツバタ
三で下がり藤
四で獅子牡丹
五つ井山の千本桜
六つ紫 色よに染めて
七つ南天 八つ山桜
九つ小梅(こんめ)を
ちらりと染めて
十で殿ごさんの 好いたように染める 

(収録日 1960年(昭和60)8月9日)

解説

 盆踊り口説きなので、途中のところどころに、「オッ」とか「オイ」、あるいは「ア、ドッコイ、ドッコイ」「ハーヨーイトシェー」「サー、ヨーホイ、ヨーホイ、ヨーイヤシェー」などの囃し言葉が入るが、それを入れると、あまりにも長くなりすぎるので省略して、詞章だけを記しておいた。
 ところで、この歌の内容はなかなか艶っぽいものを含んでいる。かかさんに秋波を送る船頭との取り合わせの物語とでもいうのであろうか。
 それはそれとして、この歌は隠岐地方では、島前、島後両地方とも、同類が子どもの世界の「手まり歌」としてうたわれている。つまり、大人の世界の民謡と、子どもの世界のわらべ歌の交流が見られる貴重な歌なのである。都万村油井の藤野コヨさん(明治三十八年生)からうかがった歌を紹介しておく。

ここのかかさん いつ来てみても
紺の前掛け茜(あかね)のタスキ
掛けて港へ塩汲み下(さ)がる
沖の船頭さん こらこら招く
招く船頭さんに 木綿糸もろて
何に染めかと 紺屋に問えば
一に橘
二にカキツバタ
三に下がり藤
四に獅子牡丹
五つ井山の千本桜
六つ紫いろいろ染めて
七つ南天 八つ山桜
九つ小梅を
いろいろ染めて
十で殿ごさんの
好いたように染めた

 確かに手まり歌としてもあちこちでうたわれていたようである。しかし、詞章の内容からして、どちらかといえば、これは本来が大人の世界の歌であるといえよう。
 けれども、子どもたちは、そのようなことにはおかまいなく、自分たちに気に入った歌があれば、巧みに子どもの世界に取り入れて、自分たちのものとして消化しきってしまうのである。