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鶴が舞いますこの家の空で(地搗き歌・松江市八束町波入)

語り(歌い)手・伝承者:渡部清市さん・1887年(明治20年)生

鶴が舞いますヨ この家(や)の空で
この家繁盛とナ 舞い降りる
オモシロヤ アー ヨイショ ヨイショ ヨイショ ヨイショ

寺の御門にナ 蜂が巣をかけて ア
和尚が出ら刺すヨ もどら刺す
オモシロヤ アー ヨイショ ヨイショ ヨイショ ヨイショ

(収録日 1969年(昭和44)7月24日)

解説

 家を建てる際、地面を搗き固めるが、その作業のおりにうたっていた歌を地搗き歌と呼んでいた。
 ここで見られる詞章は特別なものではなく、一般的に知られている7775調、つまり近世民謡調である。そしてその後に囃し詞がついている。直後に出ている「オモシロヤ」だけ見れば、島根半島の漁村部で大漁のときにうたわれている大漁歌の後に、これと同じ「オモシロヤ」は用いられているから、この歌との交流関係が感じられる。この連載でも、第五回で紹介している島根町の歌がそれであるが、念のために再掲してみよう。

鴨が来た来た 三津島の灘へ
鴨がイワシを 連れてきた
オモシロヤ

 ところで、この地搗き歌では、その後に大漁歌には存在していない別な囃し詞がついている。すなわち「アー ヨイショ ヨイショ ヨイショ ヨイシ」の部分である。これは確かに地面を搗き固めるのにふさわしい詞章であろう。具体的に作業の状況を示すと以下のようになる。
 高さ三メートルのやぐらが組まれ、作業姿の人々約30名くらいが、これらの地搗き歌に合わせて威勢よく縄を引くと、松の木で作った長さ4メートルの胴つき棒が上下に動きながら地響きを立て、土台となる石の下に小石を打ち込み地搗きが行われる。しかし、現代ではもうそのような姿は、見ることが出来なくなってしまった。
 ところで、地搗き歌の詞章であるが、なにしろこの後、何十年もにわたって住むかも知れない家を新築するための地搗きであるから、縁起の良い内容であった。島根町の詞章で紹介しておこう。

うれしめでたの 若松様は
枝も栄えて 葉も茂る

うちの親方 元から良いが
今は若世でなおよかれ

うちのお背戸に 茗荷と蕗と
茗荷めでたや 蕗繁盛
 小川 要さん・1963年(昭和38年)当時43歳