去年盆まで(盆踊り歌・松江市美保関町万原)
語り(歌い)手・伝承者:梅木一郎さん・1933年(昭和8年)生
去年盆までアー 踊らとしたに
今年ゃラン灯(とう)に アラ 灯(ひ)をともす
盆がナーアー来たらこそ ハー踊らと跳(は)にょと
浅黄ナーアー帷子アラ はげるまで
踊りナーアー 踊らさい アラ今宵が限り
明日のナーアー 晩からアラ踊られぬ
(収録日 1970年(昭和45)7月23日)
解説
この盆踊り歌をうかがったのは、30年あまり昔、1970年(昭和45年7月23日のことだった。「アー」とか「アラ」などの囃し詞を省いて音節数を見れば、
去年盆まで………… 7
踊らとしたに……… 7
今年ゃラン灯(とう)に……7
灯(ひ)をともす…………5
このように基本形を7775とする近世民謡調となる。
歌の内容は、それぞれに盆踊りにまつわる哀感がこめられている。
初めのは、昨年は一緒に楽しく盆踊りに興じていた親しい人だったが、人生は無常であり、今年はその人は鬼籍(きせき)に入ってしまっていると嘆いているのである。それで思い出すのが、1960年(昭和35年)7月16日の夜、浜田市三隅町東大谷でうかがった次の歌であった。
ハアー 盆はナアー
ヨイサ
盆はうれしや 別れた人も
アラセー ヨホホイー
晴れてこの世へ 逢いに来る
(串崎 法市さん・当時50歳代後半)
盆はうれしや………7
別れた人も…………7
晴れてこの世へ……7
逢いに来る…………5
初めの歌とまるで呼応しているような詞章であり、繰り返しの「盆は」の部分と囃し詞を除けば、やはり7775調である。
松江市美保関町の歌であるが、これは生きている者たちが、懸命に盆踊りを楽しむことによって、先祖の御霊(みたま)を満足させ、同時に自分たちも楽しもうとする姿をうたっているのであろう。
そして最後の歌であるが、これもまた同様に踊ることが出来るのも、盆の終わりに当たる今宵限りだから、精一杯踊ることを楽しもうとしているのである。
このようにご先祖の来臨を歓迎する盆踊り歌ではあるけれど、その実、踊りの輪に入り、踊り手の一人になっている自分自身もまた、その踊りを心から楽しんでおり、盆のひとときを懸命に満喫していることを、これらの盆踊り歌はそれとなく証明しているのである。