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思い出すよじゃ惚れよが浅い(盆踊り歌・鹿足郡吉賀町幸地)

語り(歌い)手・伝承者:中村友一さん・1967年(昭和42年)当時62歳

アラ エー
思い出すよじゃ 惚れよが浅い
アラ ヨウダシタ
思い出さずにゃアー
チョイト 忘れずにゃ
アラ エーイ エーイト
サンサー

アラ エー
思ちゃおれども 言いかけにくい
アラ ヨウダシタ
心やすいが チョイト 玉に瑕(きず)
アラ エーイ エーイト
サンサー

(収録日 1966年(昭和41)5月7日)

解説

 この盆踊り歌は、長編でいわゆる口説きといわれる種類の歌ではなく、7775の近世民謡調であり、それぞれ独立しているので、順序など関係なく、自由にうたわれるものである。

思い出すよじゃ………7
惚れよが浅い…………7
思い出さずにゃ………7
忘れずにゃ……………5


思ちゃおれども………7
言いかけにくい………7
心やすいが……………7
玉に瑕(きず)………5

 二つとも男女の機微を見事に歌い上げたものである。そして最初の詞章は、明和8年(1771)の序がある『山家鳥虫歌』の中の大隅国(鹿児島県)のところに、次のように記されている。

思ひだすとは
忘るるからよ
おもひ出さずに
忘れずに

 多少の違いは見られるものの、基本的には共通ししている。実は同想歌は、もっと古く永正(えいしょう)15年(1518)に作られた『閑吟集』の中にも次のように出ていた。

思ひだすとは
忘るるか
おもひださずや
忘れねば

 そうしてみれば起源はかなり以前にさかのぼることができるのである。
 同じ歌い手からうかがった別な歌としては、

青い松葉の
心底見やれ
枯れて落ちるも
二人連れ

山が高うて
あの家が見えぬ
あの家恋しや
山憎や

 このような歌があるが、いずれも江戸時代から伝えられている歌に違いないものであろう。
 ともかくも、うたってくださった中村さんは、「三度の飯より歌が好き」といった感じの方で、筆者が石見の地から、遠く離れた出雲の地に転勤した後も、カセットテープに歌を録音され、それを郵送してくださったりしていた。懐かしい思い出である。