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ここの館の床前見れば(馬子歌・松江市島根町多古)

語り(歌い)手・伝承者:小川 要さん(1923年・大正12年生)

アーアここのナーア
館の床前見れば
鶴ナーア亀とが
舞を舞うナーエー

蝶よナー花よと
育てた娘
今はナーそなたにハー
差し上げるナーエー

(昭和58年8月12日収録)

解説

 前に紹介した婚礼の嫁入り行列が、婚家に到着したさい、その家を誉める歌である。
 以前は上手に歌える人を雇って朗々と歌い上げながら嫁入り行列を作り、嫁の荷物も車に積みながら、このような歌はうたわれていたのであった。
 はじめの歌の音節を「遊び言葉」を省いて眺めて見よう。

ここのやかたの……七
とこまえみれば……七
つるとかめとが……七
まいをまう…………五

次の家を誉める歌では、

ちょうよはなよと…七
そだてたむすめ……七
いまはそなたに……七
さしあげる…………五

 文字数で見ると「ちょう」は三文字で「ちょ」は拗音なので一音節と数えるので「蝶よ花よと」で七音節になり、七七七五の近世民謡調となるのである。
 そして馬子歌には、まだまだいろいろなものがあるので、少し紹介しておく。いずれも今回うたってくださった小川要氏からうかがったものである。「遊び言葉」を省いて記しておく。
家を出るとき

さらば行きます
どなたもさらば
長のお世話に
なりました

婚家に嫁が到着し、冒頭の歌の後に出すのは、

わしがこの手で
受け取りからにゃ
奥の一間へ
収めます

ここの息子は
大黒柱
ござる嫁御は
福の神

これらの他によく知られているものとして、

届け届けは
末まで届け
末は鶴亀
五葉の松

おまや百まで
わしゃ九十九まで
共に白髪の
生えるまで

などがあったのである。