味噌を搗くなら(味噌搗き歌・仁多郡奥出雲町上阿井)
語り(歌い)手・伝承者:山田福一さん(1913年・大正2年生)
味噌を搗くなら
どんどと搗きゃれ
下に卵が
ありゃすまい
(昭和39年8月11日収録)
解説
昔は農家では、自分の家で使う味噌を造っていた。そのとき茹でた大豆をつぶすのに、臼の中に入れた大豆を杵で搗きながら、作業歌としてうたっていたのが、この歌であった。ただ、近年はこの作業も、多くの家庭ではしなくなり、味噌そのものは、スーパーなどの店で買い求めるように、生活自体が変化してしまったようで、あまり知ってうたってくださる方もいなくなってしまったようだ。
したがってこのようなことを考えた場合、筆者が収録させていただくことができたのは、まことに幸せだったと言わなくてはならなかったようである。
ちなみに『郷土民謡舞踊辞典』(冨山房発行)には、「みそつきうた(味噌搗唄)」として四三六ページに次のように出ていたので引用しておく。
宮城県本吉郡の唄を例に。「南風、そよりゃくと吹く年が、ヤアエ。今年もヤ稲穂が八穂で八石、ホヤアエ」。〔島根民謡〕に、大原郡の唄として。「味噌をつきゃらば、どんどと搗きゃれ、下に卵はすゑおかぬ」。此の下に卵(・・・)云々は古い文句で。いろくの場合に唄ふ。「下に卵はありゃせまい」ともいふ。
このように紹介されており、まさに山田さんのうたってくださったそのままの詞章が出ているのである。
音節数を眺めておく・
みそをつくなら……七
どんどとつきゃれ…七
したにたまごが……七
ありゃすまい………五
つまり近世民謡調である、このとき山田さんからは味噌搗き歌としてうたわれたものに次の二曲もあったが、メロデイはともかくとして、詞章は味噌搗き以外の歌でも使われているものであった。
こちのお家は
前から繁盛
今は若世で
なお繁盛うちのお背戸の
三つまた榎
榎の実ゃならいで
金(かね)がなる
前に紹介した馬子歌でも、よく好んでこお詞章は使われている。
このように詞章だけ見れば田植え歌や臼挽き歌でも茶摘み歌にでも転用されても何らおかしくない。内容としても縁起のよいものなのである。