寺の御門に蜂が巣をかけて(地搗き歌・松江市八束町波入)
語り(歌い)手・伝承者:渡部清市さん(1893年・明治26年生)
寺の御門に
蜂が巣をかけて
和尚が出りゃ刺す
ア入りゃ刺す オモシロヤ
鶴が舞いますョ
この家(や)のそらで
この家繁盛とナ
舞い降りる オモシロヤ
アーヨイショ ヨイショ
ヨイショ ヨイショ
(昭和44年7月24日収録)
解説
地搗きとは、地面を搗いて固める作業をいう。この作業の際に、作業能率を高めるためにうたわれる歌を地搗き歌と呼んでいる。
『郷土民謡舞踊辞典』(冨山房発行)には、「じつきうた(地突歌)」として二二七ページに次のように出ていたので抄出して紹介しておく。
地搗歌とも書く。詳しくは地つきの木やり歌。建築の始めに地面をならす場合の歌。この労働を地つき、地形(ぢぎやう)、土突(どづき)と云ふ。土突(どづき)はどーつぎ(・・・・)の意味でもある。櫓を作りドーヅチといふ筒形の丸太を振り、綱を引いて地を突いてならす。歌ふものは木遣だが、地つき特有の歌も多い。(以下省略する)
この地搗きは、単純な作業であり、退屈をしないようにおもしろおかしい詞章を含んだものが多い。
この歌では、お寺の門に蜂が巣をかけているので、坊主頭の和尚さんがその門の下を通る
と、巣を守るために、蜂が和尚さんに襲いかかり、和尚さんの頭を刺すというのである。
いかにもユーモアあふれる内容ではなかろうか。
筆者が三十四歳のとき、八束町の口承文芸を収録するため、まだ陸続きになっていなかった当時の大根島(当時は八束郡八束村といった)で、島根県教育委員会が民俗総合調査を行ったさい、筆者もこのおり調査員に任命されて、その一員として島内を巡って。古老や児童からいろいろ収録したものだが、そのうちの一つがこの歌であった。
今でこそ、この大根島は陸続きとなり、松江市八束町となっているが、当時は中海に浮かぶ島だったので、現地に入るためには定期船で行くより他に方法がなかった。
ところで、島の人々は親切で、弁当を使おうとすると、わざわざ筆者のために、味噌汁を作って出してくださったり、店から食事を取り寄せてくださったところもあり、別な家では昼食を出してくださったりしたものであった。
このように思いもかけず、歓待していただいた思い出は、半世紀以上も経過した今でも、懐かしい記憶となって筆者の頭の中には残っているのである。