石臼挽け挽け(石臼挽き歌・仁多郡奥出雲町大呂)
語り(歌い)手・伝承者:安部イトさん(1897年・明治27年生)
石臼(いしし)挽(ふ)け挽(ふ)け
団子して食(か)せる
芋に蕪菜を
切り混ぜて
石臼挽かねば
また粥だ
(昭和47年5月3日収録)
解説
取り敢えず音節数をみておこう。「挽(ひ)く」を訛って「ふく」と発音されているので、そのまま記しておく。
いししふけふけ……七
だんごしてかせる…八
いもにかぶなを……七
きりまぜて…………五
いししふかねば……七
またかいじゃ………五
このように基本的には、江戸時代に流行し始めたとされる、近世民謡調の七七七五の字余りとなっているのである。
この歌は明治から大正にかけての農村の食生活をしのばせる内容を持った、石臼挽きの作業歌である。
なかなか米のご飯にありつけなかった当時としては、芋に蕪菜を混ぜたものをよく食べていた。そのことを歌の詞章に入れてうたっていたのであろう。
ところで、安部さんの歌を側で聞いていた、安部さんんと親しくて、近所にお住まいだった、安来市広瀬町西比田出身の永井トヨノさん(明治30年生)は、同じときに、自分は少し違っているとうたってくださったのが次の歌であった。
石臼(いしし)挽(ふ)け挽(ふ)け
団子して食(か)せる
石臼挽かねば
またお粥
このとき永井さんは「臼挽き歌」として、次の歌も披露してくださった。実際は臼挽き歌も石臼挽き歌も同じものを別な表現で言っているのだろうと、筆者は考えている。ただ、石見地方では臼挽き歌は聞くが、石臼挽き歌という種類の歌は。筆者はなぜか聞いたことはない。
臼にさばらば
ナー ヨイナー
ヤレナーヨイナー
歌出せ女(おなご)
歌は仕事の ヨイナー
ヤレナーヨイナー ヤレ
華だもの
遊び言葉をはずして音節数をしらべておこう。
うすにさばらば……七
うただせおなご……七
うたはしごとの……七
はなだもの…………五
まさに近世民謡調そのものなのである。