おばばどこ行きゃる(餅つき歌・浜田市三隅町古湊)
語り(歌い)手・伝承者:浜崎綾子さん(1921年・大正10年生)
おばばどこ行きゃる
三升樽に
イワシを三ごん提げて
嫁の在所に孫抱きに
ヤンサヨ
益田名物餅つき音頭
調子揃えて
杵の音
ヤンサヨ
(昭和35年4月20日収録)
解説
ここ石見地方西部では祝いの餅を搗くとき、作業歌として、よく餅つき音頭をうたったものだった。
筆者が初任校の三隅中学校に勤務していたころ、ちょうど携帯用の録音機が発売されたばかりだった。そこで始めたのが、民話やわらべ歌などを録音し、学校での授業でも生徒に聞かせようと、若い筆者はこれらの伝承を貴重なものだという認識を筆者なりに自覚しつつ、古老を訪ねて録音を続けたものだった。中には「民話は知らないが、作業歌ならうたえますよ」という方々もいたので、筆者の収録作業は、民話、わらべ歌以外に、田植え歌とか臼挽き歌、酒を造る作業で杜氏たちのうたう杜氏歌など、次第に口承文芸一般に広がっていったものである。
浜崎綾子さんも、まだお若いにもかかわらず、熱心な協力者のお一人だった。
この餅つき歌であるが、はやし言葉である「ヤンサヨ」を除けば、七七七五の近世民謡調である。三隅中学校校区ではよくうたわれていた、
オーソドックスな歌は、次のものである。
餅を搗くなら
一石どま搗きゃれ
二斗や三斗は
だれも搗く
似ているが、次のものも合った。
餅を搗くなら
一石二斗どま搗きゃれ
二斗や三斗は
臼よごし
これもまたよくうたわれていた。
餅を搗くなら
一石二斗どま搗きゃれ
二斗や三斗は
杵よごし
しかし、ここ三隅町を外れたとたん、どうしたことかこの類いの餅つき歌に出会うことはついどなくなってしまった。
それだけに、筆者が若かった初任校に勤務していた時代。盛んに校区内で聞いていたこのような餅つき歌は、まさに筆者にとっては、「懐かしのメロデイ」そのものなのである。