道端のタケノコと(田植え歌・隠岐郡隠岐の島町=旧・都万村油井)
語り(歌い)手・伝承者:藤田シナさん(1908年・明治41年生)
アー道端のタケノコと
人の小娘はヨ
惜しんでも惜しまれぬ
人の小娘はヨ
アーとんとんトンギリスが
何を持って来たぞや
唐升(とうます)にとかけて
俵持って来たぞや
(昭和60年8月23日収録)
解説
島根県の民謡調査の依頼を受けて、うかがった田植え歌である。
音頭取りが初めをうたいだすと後半部「惜しんでも……」「唐升に……」からは、他の早乙女たちがつけてうたう。また短いこの歌を何度も繰り返しながら続けるとされている。
遊び言葉を省き、音節数をみておこう。
みちばたのこむすめと…十
ひとのこむすめは………八
おしんでもおしまれぬ…十
ひとのこむすめは………八
とんとんとんぎりすは…十
なにをもってきたぞや…九
とますにとかけて………八
たわらもってきたぞや…八
ここでも七七七五の近世民謡調や五七七四の古代調とも違ったスタイルである。離島に残るこのような十八十八調も、案外。新たに見つかった古代調と言えるのかもしれない。
なお、ここ油井は平成の大合併以前は、都万村であった。昭和五十二年夏、隠岐島前高校郷土部は四泊五日で。都万村の口承文芸調査を行い、村の多くの方々に協力願って民話やわらべ歌、民謡を収録し、『都万村の民話』(隠岐島の伝承8)としてA5二五三ページで出版したものである。
せっかくなので同書から昭和五十二年七月三十日に藤田リツさん(明治30年生)と岡田テイさん(明治33年生)からうかがった田植え歌(同書二二五ページ)を紹介しておく。
シャラリー シャラリー
赤い帷子(かたびら)にゃ
昼が来やら
赤い帷子にゃシャラリー シャラリー
赤い帷子にゃ
昼が来やら
赤い帷子にゃ
これで見ると音節数は、
あかいかたびらにゃ……八
ひるがきたやら…………七
あかいかたびらにゃ……八
このようになり、冒頭の歌とはまた違ったスタイルであることが判る。
決まった形で、田植え歌を確認することができないのであるが。こんなところにも伝承民謡特有の問題を、感じられるようである。