生えた生えぬは(田の草取り歌・江津市跡市)

語り(歌い)手・伝承者: 伝承者 古川シナさん(1891年・明治24年生)

生えた生えぬはヨー
上から知れぬ
夏の田の草
取りゃ知れる

(昭和46年8月16日収録)

解説

 田に生えた雑草を抜きながら、稲の発芽をさぐる様子をうたったものであろう。
 音節を見ると次のようになっている。

はえたはえぬは……七
うえからしれぬ……七
なつのたのくさ……七
とりゃしれる………五

 七七七五となり、典型的な近世民謡調である。
この形の作業歌は、広く各地の農村で見られる。伝承者の古川さんがうたわれた「臼挽き歌」も同様であった。

臼や回れや
挽き木はじしゃれ
臼の早挽きゃ
末ゃとげぬ

せっかくなので他の種類の作業歌で同じ七七七五調を紹介しておこう。

 木挽き歌として聞いた大田市川合町吉永の酒本安吉さん(明治7年生)の歌。

思い出いては
空星眺め
あの星あたりが
主の空

 地搗き歌として浜田市金城町七条の前岡シズヨさん(明治32年生)からうかがったもの。

山で床取りゃ
木の根が枕
落ちる木の葉が
夜着となる

餅つき歌としてうかがった。浜田市三隅町三隅の岩田イセさん(明治19年生)。

声じゃ呼ばれぬ
手じゃ招かれの
歌の文句で悟りゃんせ

 田植え歌として益田市匹見町道川の寺尾セツさん(明治20年生)からうかがったもの。

思う殿御と
田の草取れば
あたりあたりりゃ
おちょ(お手)握る

ここにあげた木挽き歌、餅つき歌、田植え歌のいずれの詞章も異性間の恋心をうたっている。人々の生活にとって、恋愛は重要なことと理解できる。
「山で床取りゃ……」の地搗き歌は、この点ではやや異質かもしれないが、以前の人々の旅の様子と思えば、それなりの味はあるようであろう。