コブ取り爺

語り(歌い)手・伝承者:島根県奥出雲町 安部 イトさん(明治27年生)

 とんと昔があったげな。じいさんとばあさんがおったげな。そのじいさん、大きなコブが出ていたそうで、それから山へ木樵りに行って、薮に隠れていたら、天狗さんが三人ほど出て、

 天狗 天狗 メッテング
 天狗 天狗 メッテング

と踊られるそうで、あまりおもしろいものだから、じいさんも薮の中から出て、

 天狗 天狗 メッテング
 じいをそえて ヨッテング

言って踊ったら、天狗さんがたいへんに喜んで、
「やあ、じい、上手だな」と言い、それから、
「こりゃあ、おもしろいコブが出ちょうなあ。コブ取ってやらあか」と、ちょっとコブを取ってしまった。
 すると、顔が軽くなってしまい、じいさんはとても喜んで帰って来たげな。
 隣のじいさんにもコブが出ていたが、先のじいさんの顔を見て、
「あら、おまえ、コブ、どげして」
「山へ木樵りに行っちょったら、天狗さんが踊っちょらっしゃて、あんまりおもしろいもんだけん、『天狗、天狗、メッテング、じいをそろえて、ヨッテング』言ったら、天狗さんがおもしろがって、コブ取ってごさっしゃってのう、ほんに軽うなっていいことよのう」と答えたげな。
  それから、隣のじいさんも、それなら自分も行ってコブを取ってもらおうかな、と出かけたら、また天狗さんが「天狗、天狗、メッテング」とばかり言って踊っておられたので、じいさんもとび出して、

 天狗 天狗 メッテング
 じいをそえて ヨッテング

と言いながら踊ったら、
「ああ、じいの踊りが上手だなあ」と言い、
「じい、コブが出ちょうなあ、もう一つやらあか」と、前のじいさんのコブを、ちょっとつけてもらったので、そのじいさんは両方へコブが出て、それから泣き泣き帰ったげなと。
 昔こっぽし。

解説

 昭和45年7月15日に安部さんのお宅で語っていただいたものである。このホームページ(出雲かんべの里・民話館・むかしばなしの部屋)で、とんと昔のお話会の岡村悦子さんが語っている「コブ取り爺」の原話がこれである。二人の語りを聞き比べていただくのも興味深いものがあろう。
 ところでこれはご存じ「コブ取りじいさん」の昔話であるが、よく知られている話とは少しばかり違っていることにお気づきだろうか。
 大きく眺めると二カ所ばかり認められるようだ。
 まず、具体的に歌の詞章が明らかにされている点である。そして天狗とじいさんの歌の詞章は少し異なっている。いま一つの違いは隣のじいさんの踊りに対する天狗の評価が高い点である。天狗たちは最初のじいさんだけでなく、隣のじいさんに対しても、同じように「上手だ」と誉めている。一般型の話では、隣のじいは踊りが下手なので、天狗も退屈して昨日のじいから預かったコブを、同じじいと思い返すことで終わるが、ここ奥出雲町の話では、隣のじいには褒美(ほうび)としてコブを進呈することになっているのである。