樫の木の元と裏

語り(歌い)手・伝承者:島根県鹿足郡吉賀町柿木村 大田 節蔵さん(明治28年生)

 昔、六十歳を過ぎると、その年寄りは山へ捨てることになっていた。
  あるとき大名が、樫の裏元(うらもと)なしに削ったものを出して、
「元と裏が分かった者にはほうびをやる」と触れを出した。
  ところが、だれもその元と裏が分からない。
  それから、ある息子が山へ背負っていったお父さんのところへ行って、問ってみようと、山へごそごそ行って聞いてみたら、そのお父さんは、
「そりゃ、おまえらあが知るまあがのう、どっちが裏やら元やら分からんちゅうことになりゃあのう、いよいよまん中ぁ縛って吊ってみい。同しがように削ったぁあっても、元が下がるから、その方が元ちゅうことを印(しるし)をして出せ」と言ったので、その息子は帰ってから言われた通りにして出したところ、大名が、
「おまえが一人考えで分かったのか」と聞いたので、息子は、
「いや、こりゃあそうじゃあなあ、山に捨てた親父に問いに行って教えてもうたんじゃ」と答えた。すると大名は、
「おお、そうするとおやというものはなかなか大切なもんじゃの」と感心した。
 それから「親というものを大切にしなければならない」「親には孝行をしなさい」ということが始まったのだよ。

解説

 昭和37年8月にお宅で語っていただいた。ところで、この話は『日本昔話大成』(関敬吾)の分類を見ると、笑話の「和尚と小僧」譚の中の「親棄山」に、このモチーフが認められる。語り手の大田さんは、たいそうな物知りで、このころよくお宅へお邪魔しては、話や歌をうかがったものである。