アタさんなんぼ(子守歌)
語り(歌い)手・伝承者:松江市八束町・吉岡鶴之助さん・明治38年生
アタさんなんぼ 十三ここのつ そらまんだ若いぞ
若(わこ)うはござらぬ いにとうござる いなさる道で サト餅買うて
だれにやろか お万にやろか
お万が部屋は 今こそ見たれ 金襴緞子の(きんらんどんす)キリコの枕
(昭和45年7月収録)
解説
島根県の場合にも、いくつかの地方差が見られる。これは子守歌の遊ばせ歌といえるだろう。詞章が「そらまんだ若いぞ」などから見て伯耆地方から出雲地方にかけて伝えられている歌の亜流といえる。
この「アタさん」という語句は、柳田國男著の『小さき者の声』を借りると、日本に仏教が渡来するより以前に、祖先の人たちが信仰の対象として、太陽や月を拝む際に発していたと思われる「アナトウト(ああ尊い)」という語に起源を持つ「アト」の変化したものではないかと考えられるという。そしてわたしは、島根県の西端、鹿足郡吉賀町柿木村柿木で、まさに柳田のいう「アトさん」で始まる次の歌を、この八束町で聞くよりも7年前になる昭和37年に聞いている。
アトさまなんぼ 十三ここのつ
それにしちゃあ若いの 若いこたぁ道理
胴馬へ乗せて あっちへじろり こっちへじろり
じろりの中で よい子を拾うて
お千に抱かしょ お千はいやいや お万に抱かしょ お万もいやいや
お万が部屋を 今朝こそ見たら 金の屏風(びょうぶ)に鹿子(かなこ)の枕(小田サメさん・明治31年生)
この月の古称を意味するアタとかアトの語を用いた歌は、わたしとしては八束町と鹿足郡吉賀町柿木村以外の山陰両県では、まだ聞いていない。しかし、収録を続けていると、こうした古さをしのばせる貴重な伝承に出会うことがある。それがまたこのようなわらべ歌の言い知れぬ魅力ということになる。