ぼんぼん さんさん(手まり歌)
語り(歌い)手・伝承者:大田市三瓶町池田・市 博恵さん・当時13歳
ぼんぼん さんさん さん 山道
やんやん 破れた 御衣(おんころも)
行ききも もん戻りも
きにかかる か菓子屋さん
(昭和36年7月収録)
解説
三瓶山方面の言語伝承を集めに回っていたら、女の子たちが遊んでいた。そこでうたってもらった一つである。そのころ、わたしはまだ26歳で、この方面の知識も浅かったので、わたしはこの歌も同音語を重ねたおもしろさを持つ歌としてのみ考えていた。
ところが、後になって実はこの歌は大人の労作歌を子ども用に改作したことが分かった。
昭和40年4月のこと。同県鹿足郡吉賀町柿木村口屋で山口リヨさん(当時77歳・同町高尻出身)から、教えていただいた木挽(こび)き歌は、まさにこの歌の本歌だったのである。
坊(ぼん)さん山道ゃ 破れた衣
行きし 戻りが 木に掛かる
ところで、柳田国男も『民謡覚書』の「採集の栞」の中で、次のように書いている。
ぼさん山路破れたころも
行きし戻りがきにかかる
そして「江戸でも古くから有名であったのは、この口合が軽い故であるが、実はもと遠くから踊りに来た男女をからかった歌で、なまめかしい色々の意味が含まれてゐた。」と解説しているが、柳田は盆踊り歌の一種として、この歌を扱っていたことが分かる。
さて、これらの歌は音節数からは基本的には7775スタイルである。
ぼさん山路………7
破れたころも……7
行きし戻りが……7
きにかかる………5
この形は、近世民謡調と呼ばれ、江戸時代後期に流行し始めたものであり、現在の各地の民謡にも、このスタイルのものがかなりある。安来節がそれであり、一方、鳥取県の貝殻節はこれの字余りの形である。
さて、最初の歌に戻ってみよう。子どもたちは模倣の名人である。この歌も本歌をヒントに、まるで吃音(きつおん)のような繰り返しの詞章にして、いつしか元の意味などそっちのけで、「衣が木に掛かる」はずだったのが、「気にかかる(か)菓子屋さん」としてしまった。
子どもの世界にあっては、柳田のいうようななまめかしく深遠な掛詞の意味など無縁であろう。それよりも彼らにとっては菓子の方がよほど重要な問題だった。大人の歌が子どもの世界に移されてしまうと、アレンジの達人でもある彼らは、たちまちこのような詞章に変えて、遊びを楽しんでいたのであった。