ネズミ浄土

語り(歌い)手・伝承者:島根県隠岐郡知夫村薄毛 前横 ヨキさん(明治26年生)

 とんと昔があったげな。
 じいさんとばあさんとがあって、山へ柴刈りに行きました。後から、そいから昼だけえ、(ばあさんが)焼き飯三つ作って、そいから持っていったところが、一つわて食って、一つ余った。
「あた(あなた)食え」
「あた食え」言っちょったら、そこに穴が開いちょって、穴の中にその焼き飯が、ゴロゴロゴロゴロゴロッとまくれて行った。
 まあ、じいいさん、
「この穴ん中へ。わしゃ行きて、惜しい、惜しい。取ってくるで」ちゅうて、
「まあ、じいさん、そげな穴ん中へ入って、取ってこうでもええし」
「ああ、わしゃ惜しいけえ、取りぃ行く」て言って、取りに行きたところが、地蔵さんが座ってござった。
「地蔵さん、地蔵さん、ここあたり、焼き飯どもくどれて(転がって)来(け)えせだったかいの」言ったら、
「や、今さっき、わしが一口食って、またくどらかしておいた」。
 また先へ行ったら、また、地蔵さんがござつた。
「地蔵さん、地蔵さん、ここ、焼き飯どもがくどれて来えせだったかいの」
 また先へ行ったら、また、地蔵さんがござつた。
「地蔵さん、地蔵さん、ここ、焼き飯どもがくどれて来えせだったかいの」
「わしが一口食って、また、くどらかしてやった」
 そいから先行ったとこがネズミが米ついておった。

   ここのお国は 猫さらおらねば 国やわがもんじゃえ ストトン ストトン

てて言って、米搗(つ)いちょった。
ーこりやあ、うまいこと言うわいー
と思うて、こうしてはぐれして(蔭から)見とったところが、ネズミが米を搗いておった。
「ニャーオン」ててじじが猫の真似をした。
「ああ、猫が来た」って言ってネズミがけ、みな、駆けらかして逃げてしまった。その後へ入った爺さんは、着物ぬいでねえ、米をすっぱり(全部)杵からすっぽり持ってもどった。
「おい、ばばよ。ばばよ。持ってもどったわい。今日はうまいことをしたわい」
「じいさん、じいさん、どげなうまいことをしたかい」
「ええい、ネズミが米搗いちょって『猫さらおらねば国やわがもんじゃえ』…わしが猫のまねをして、ニャーオン、て言ったら駆けらかして逃げた。その後、米をすっぱりかっさらってもどったわ。ああ、うまいことをした。今日は祝いだ。隣のじいさん、ばあさんを呼んで来い」
 隣のじいさんとばあさんを呼んで来ると、
「なんといいことをしたなあ」
 そんなら、隣のばばあは、
「ここのじいさんも寝てばっかりおらでも、明日(あした)は行きてみさっしゃいな」
「ほんなら、まあ行かぁかなあ」
 また、山へ行きて柴を刈っちょったら、ばばが後から焼き飯を持って来て、ひとつあて食って、一つ余ったら、穴ん中へくどらかしてやって、そいから、まあ、穴ん中へ入って行く。地蔵さんが、
「焼き飯が、くどらかして来なかったか」
「いま、わしが一口食って、くどらかしてやった」
 また、先へ行ったら地蔵さんがおって、また、
「地蔵さん、地蔵さん、焼飯どまぁくどれてけえせだったかいのう」
「わしが、今、一口食ってまくらかしてやった (転がしてやった)」
 また、行きたところ、ネズミが、あんのたま(案の定)米を搗いて、

  ここのお国は、猫さらおらねば 国わが、国わが

て。またじいさんが、
「ニャーオン」て言ったら、
「ゆうべのじいだ、ゆうべのじいだ。はや味噌つけ、醤油つけ。噛んでやれ、噛んでやれ」てて言ってねえ、むちゃくちゃにじいさんをしてね。焼かれてしまって。醤油をつけて噛んでしまった。こういう話です。
 その昔ごんぼり。

解説

 この話は昭和51年(1976)7月30日に前横さんのお宅でうかがったものである。一般的におにぎりとか団子を穴に落としてじいさんが、それを追って地下のネズミの国へ行くことになっているが、隠岐地方では焼き飯なる独特の食べ物を落とすことになっている。これはにぎり飯の外側に小醤油という味噌の一種をまぶし、鉄器で表面を焼いたものを称しており、決してチャーハンではないのである。それに爺婆が食べると一個余る。爺婆がお互いに譲り合っているうちに、焼き飯が転げだして穴に落ちるというスタイルを取るところが、他地方では見られない隠岐地方独特なのである。