腰折れ雀

語り(歌い)手・伝承者:鳥取県八頭郡智頭町 大原寿美子さん・明治40年生

 昔あるところに正直なおじいさんとおばあさんがあってなあ。
 ある日。雀がたくさん庭の方へ降りていて、おばあさんが庭に出てみたところが、驚いてたーっと雀がたったけど、一羽の雀が脚を痛めていて、よう歩かないものだから残っていたので、
ーまあ、かわいそうにーと思って、その雀を引き上げて見たら、やっぱり脚を痛めているので、
「こりゃあ、まあ、かわいそうや」と言って、おばあさんが、それを籠に入れて、米やら虫やら草やらの餌をやってかわいがっていたそうな。
 そうしたところが、一定の日にちがたったら、それでも雀の脚がよく治ったから、
「ああ、治った、治った。おめえも治ったらなあ、親や兄弟のとこへ行って、友だちやみんなといっしょになりゃええ。今度は飛べるし、そいから歩けるしするけえ、放いてやるけえなあ」と言って、放してやったところが、その雀はダーンとたって、うれしそうに「チュンチュン」言って、みんなといっしょのとこへ行ってしまったそうな。
 そうしたら、まあ、一月も二月もしてから、その雀がちょいっとまた庭へやって来て、
「チュンチュンチュンチュン」と言うのでおじいさんとおばあさんは出てみたそうな。
「ああ、ああ、また来たか、よう治ってみんなと、ええ友だちと遊んどるかい」と言ったら、雀はひょーっと立ち上がったと思ったら、ポトンと何か落としたそうな。
 そこでおばあさんがそこへ行って見たところが、瓢箪の実を落としていたのだったそうな。おばあさんはその瓢箪(ひょうたん)の実を拾って植えたところが、蔓(つる)がいくらでも延びてよくでき、そのうち花が咲いて、瓢箪が本当にいっぱいになったそうな。それで二人は、
「まあ、ほんに瓢箪がなったわ」と言っていたそうな。そのうち、それが熟してきたので、その瓢箪を取って、池につけて中の実を出し、みんな空にしてしまったそうな。そして、近所の人たちにも、あれへもあげ、これへもあげして、自分の家も残った四つか五つかの瓢箪を蔵にしまっておいたそうな。それで、
「ほんによう何じゃ、実も出たし、瓢箪もできたし…」と見ていたところが、まだ重たいので、
ーこらあまあ何ちゅうことじゃ。瓢箪には実は取ってしまって中は何もないはずじゃがなあ、何ちゅう重たいことじゃろうーと思って降ろして見たところが、一つの瓢箪の中にはお米がいっぱいことつまっているので、
「こりゃあ、たまげた」と言って、また次のも出してみれば、またお米がいっぱいに入っている。そこでその米を出してみる。また今度は炭もいっぱいになって尽きないそうな。
 そうしたら、隣のおばあさんがやって来て、それを見てうらやましくなって、
「まあ、隣のおばあさんは雀を助けて、瓢箪の籾をもろうたら、瓢箪の中にいっぱいこと、米が入るけえ、まあほんに、うらも雀の脚を治いたらにゃあならん」と言って、それから、自分の家の庭に降りてきた雀を見るけれど、脚を痛めた雀はいないものだから、庭へ来ている一羽の雀に向かって、石を持ってきて、やっとばかりに石を投げてぶつけたら、その雀に当たって脚を痛めたそうな。そこで、
「当たったか、当たったか、あ、痛かろう、痛かろう」と言って雀を拾いあげて、米をやったり草をやったり、虫を捕ってきてやったりして、やっとその雀の脚を治したそうな。
「ああ、よかった、よかった。これでなあ、ほんにようなった。まあ、おめいも人並みなったけえ、まあ逃げて、人のおるところへ行けえよ」と言って放してやったら、雀は「チュンチュンチュンチュン」言って逃げたそうな。
 それから何日かたってから、またその雀が庭へやって来たそうな。そうして何かをポトンとまた落としたので、
ー何だろうーと隣のおばあさんが思って、よく見れば瓢箪の実が置いてあったそうな。
「ああ、ああ、瓢箪の実ぃ持ってきてくれたか」と言うところで、それから、その瓢箪の実を植えておいたところが、やがて瓢箪がたくさんなったそうな。
ーほんによけいなって、みんなにあげれるわーと言うほどになって、それから、おばあさんは瓢箪を取って、
「まあ、うちにも三つが四つでも五つでも、七つでもいいわ」と言って、家の蔵に入れてしまい、そしてある一定の日にちがたってから、降ろしてみたら、なんとたくさんのムカデやら蛇やらミミズやら何やらかんやら、虫がいっぱい出てきて、おばあさんをとうとう食い殺したそうな。
 それだから、悪いことをして雀などを痛めなかったらよかったけれど、欲ばりをしてはいけないのだで。
 そればっちり。

解説

 語り手は大原寿美子さん(明治40年=1907年生)で、昭和60年8月にうかがった話である。関敬吾博士の『日本昔話大成』では、「本格昔話」の「8 隣の爺」の中に「腰折雀」として、次のようになっている。

192 腰折雀(AT554 cfAT480)

 1、婆が傷ついた雀を助ける。2、瓢(またはその種)を三つ(一つ)くれる。瓢(種をまいて生える)から米・金銀・甘い水が出る。3、隣の婆が故意に雀を傷つける。もらった瓢から蜂・泥・辛い水・入道が出る。この話は古く鎌倉時代にまとめられた『宇治拾遺物語』にもある古くから伝わる話である。