度胸のよい婿捜し

語り(歌い)手・伝承者:島根県浜田市三隅町東平原 松岡宗太さん・明治29年生

 昔、あるところに有名な菓子屋がありましたげな。
 その菓子屋にたった一人、娘がおり、それがまたとても美しい人だったそうです。
そして婿さんをもらわなければというので、いろいろ捜しましたが、なかなか気に入った婿さんが見つかりません。しかし、やっと見つけて婿さんをもらったそうです。この婿さんというのは、また、菓子をこしらえることがとても上手で、その菓子屋はますます繁盛したそうです。
 ところが、よいことばかりは続かないもので、その婿さんが死にましたそうな。
「惜しい婿さんが死んだ」と娘さんも本当に気が違うように悲しみなさるし、両親も心配されたそうです。
 けれども、死んだものはしかたがないので、代わりの婿さんをもらわなければ、ということになりました。
「とてもああいう婿さんをもらうことはできん。しかし、人間ちゅうもんは何か一つ芸がなければおもしろうなぁが、いよいよ他におらんちゅうことになりゃあ、度胸のええ、寂しさぁせん婿さんを捜そう」ということになりましたげな。
 それから婿さんを一人もらいましたげな。
 ところが、夜、婿さんと娘さんと連れて寝ていて、
「まあ、ちょっこり起きい」と娘さんが婿さんに言う。
見ると、前の婿さんを棺桶に入れて、埋めずに床の間に据えてあるんだげな。そして棺桶の蓋を取って、
「こりゃぁ、初め死んだ婿さんで、惜しゅうてならんけえ、埋(い)けんこうにここにあるが、この肉をなあ、切って食べつりゃあ、わしの婿にしてやろう」と娘さんが言いましたげな。新しい婿さんは、たまげてしまって、とてもそれを食べる気になれないので、とんで帰ってしまったげな。
 また、婿さんをもらったげな。次の婿さんにもそのようにしますと、これもたまげて帰ってしまったげな。
 それで、三人目の婿さんにも、そのようにしましたげな。しかし、その男は度胸がよいのだそうです。
「これを食うたところで、毒で死にゃあせんけえ、どのくらい食やあええか」
「いや、そりゃぁわずかでええ。好きなほど食やあ婿にしてやる」
「よし食おう。包丁もって来い」。そう言って包丁を受け取ると、それを切って食べましたげな。
 ところが、食べてみれば、それは菓子だったげな。なんと言ってもそこは菓子屋なので、前の婿さんに似せて菓子でこしらえてありましたげな。
 その男は、そのように度胸がよかったので、とうとうそこの婿さんになりましたげな。

解説

 語り手は松岡宗太さん(明治29年生)。昭和35年(1960)3月にお宅でうかがった。
関敬吾博士の分類では、「本格昔話」の中の「婚姻・難題聟」の中の「ぼっこ食い」として登録されている。各地に類話が認められるが、県内での分布は少ないようだ。