狐と猿と川獺
語り(歌い)手・伝承者:鳥取県東伯郡三朝町吉尾谷 別所菊子さん・明治35年生
昔、ある人が柿谷の盆町に行きました。そうして茣蓙(ござ)と塩と小豆(あずき)を買って帰っていたら、狐と猿と川獺(かわうそ)がそれを見つけて、
「あら、あの人が柿谷の町からいいもの買って帰りよるけえ、あれだまいて盗ったら」ということになって、うまく盗ったそうです。
そしてそれを分配することになって、小豆は狐がもらいました。
「おれがまあ小豆取る。川獺殿は魚取るが上手だけえ、おまえ塩を取れ、から、猿は歌が上手なけえこの茣蓙敷いとって、山のウネからども歌うあならええけえ、そがせえ」というように分けました。
そうしたところが、川獺は塩を負ったまんま川へ入ったところ、塩はみんな溶けてしまって何にもならなくなりました。
また、猿はそのござを山のウネに持って上がって敷いていて、歌いかけたところが、ずず-っと滑って落ってお尻をすってしまいました。
川獺がふり向いて猿を見て、
「猿のケツは真っ赤なだって」と言ったそうです。そして、
「狐のやつめが、あいつがだまいて、おどうにこがんことをしたけえ怒ったらぁ」と二人で狐のところへ行ったら、狐は小豆を食べてしまって、小豆の皮を顔などになすりつけておき、
「柿谷の町へ行きゃあ、もうはやだまされぬ、うらぁ小豆を食ったら、こげなもんがいっと顔へ出て、ように困っとるに」と言ったそうなって。
こっぽり。
解説
語り手は別所菊子さん(明治35年生)。昭和63年8月に別所さんのお宅でうかがった。関 敬吾『日本昔話大成』によると、動物昔話の「動物分配」の中に類話がいくつか紹介されている。「狸と兎と川獺」か「狐と狸と兎」「狢と猿と川獺」、あるいは「猿と川獺の交換」あたりがそれである。ただ、別所さんの話に似ているが、全く同じものは見あたらなかった。