狐とカワウソと猿の拾い物分配

語り(歌い)手・伝承者:島根県松江市玉湯町下大谷 春木 務さん・明治44年(1911)生

 とんと昔があったげな。キツネとカワウソと、それから猿が塩と小豆とゴザを拾ったげな。それでキツネが言うことには、
「おまえ、猿さん、木の上にいてだけん(いるのだから)、ゴザがいいかも知れん」とゴザをやった。それからカワウソには、
「おまえは水のああとこにおってだけん、塩気がなかろうから塩を持っていんだらええ」。カワウソは塩をもらって行く。キツネは、
「ほんなら、おら、小豆持っていぬる」と持って帰った。
 明くる日になった。
 猿は木の上にゴザを敷いて寝たら、滑って大怪我をするし、カワウソは塩が溶けてなくなってしまった。 ところが、キツネは小豆を腹いっぱい食った後、小豆の皮を顔の方にひっつけて、二人が怒ってやって来たら、「うう-ん、おらもおまえ、ものが出てえらい目にあった」と言って、二人をだましたということだ。こっぽし。

解説

 「キツネとカワウソと猿の拾いもの」について解説しておく。語り手は春木務さん(明治四十四年生)。昭和六十一年に聞かせていただいた。
 類話は東北から九州まで分布している。ただ福岡県築上郡や高知県高岡郡などではキツネに代わってタヌキが主人公になっているが、どちらかというとキツネの方が多いようである。また、県内では大田市富山町や江津市都治町に類話が見られるが、大田市の二例ではキツネとタヌキの両者の場合が別個に存在し、江津市の方はタヌキとなっている。
 ここ玉湯町ではキツネが主人公で、その知恵を生かして、狡猾者たる本領を発揮し、人のよい猿やカワウソを騙して、一人だけよい目を味わうという結果で終わっている。ここで思い出されるのが似た話の「猿蟹合戦」であろう。
 ところが、今回の話では「猿蟹合戦」での蟹の柿を独り占めした猿に見られるような罰を受けるようなことはない。もっとも後者の猿は被害者になっている前者のそれと違い、性格が反対で、この方が狡猾者(こうかつもの)に仕立てられているのである。