鬼の面か
語り(歌い)手・伝承者:東伯郡三朝町吉尾 別所 菊子さん・明治35年(1902)生
昔あるところにおばあさんと娘と住んでおった。そぉで貧乏で女中奉公に娘が出なならんようになって、そっでおばあさんを一日も見ずとようおらんけえ、おばあさんに似た面かを買ってきて、それを持ってそうして女中に行って、そのご飯食べるたんびにその女中部屋に行って、そのおばあさんの口にご飯を食べさしてあげよったに、したら、主人がそれを見て、
-何だって、まあ、ご飯食べるたんびに、あがんとこに行くだらあか。何しに行くだらあか-と思って、不思議に思って行って見なはったら、おばあさんの面かに、口のへりにご飯粒がついておった。そっでその主人がしゅうかしゅじ都合があったでしょうぞいなあ、鬼面かと替えておいただ。
したら、晩にご飯を持って行ってみたら、おばあさんの顔が鬼面かに……
「こりゃあ、おばあさんの何か変わったことがあっだも知らん」てって、
「ちょっと暇をもらって行かしてごしぇえ」言って、
「今日は晩げだけえ、明日にするがええわな」
「いや、どげでも今日中に行ってみたいだ」って、そっで、その鬼面かを懐に入れておばあさんとこに行きかけたら、日が暮れたら峠に博奕打つもんがえっとおって、「火ぃ焚け。こっから火焚けや。見えんけえ、火ぃ焚け」て、
「もっと大きな火ぃ焚けや、もっと大きな火ぃ焚け」てって、火ぃ焚かした。あんまり熱いだによって、顔が。そっでちょいっとこう鬼面かを出いてかぶったところが、博奕打ちがひょっと見たところが、鬼面かだ……
「わあ-っ、鬼が出た、鬼が出た」て博奕にしとった突っ込んだ金を、みんなそこに置いて逃げてしまって、そっでその金持っておばあさんのとこに行って。
親孝行を七福神さんが、そがにしられただ、ちやな話、こっぽりですが。
解説
関 敬吾『日本昔話大成』で見ると笑話の中の「誇張譚」に位置づけられており、「鬼の面」として登録されているのがそれであり、次のようになっている。
ある女(男)が山(化け物屋敷)で鬼の面をかぶっている。化け物がそれを見て逃げる。女は(a)宝物をとって帰る、または(b)化け物屋敷の主人になる。
しかし、娘が女中奉公に出て、奉公先でおばあさんの面を鬼の面に代えられ、変事があったのかと、娘が暇をもらってわが家へ帰る途中、博奕打ちに捉えられ、飯炊きをさせられるが、あまり薪がくすぼるので煙たくて鬼の面をかぶったところを,博打たちが鬼と思って逃げ出し,娘は博奕打ちの残した金をもらって帰るとする筋書きの話が山陰ではよく見られるので、関 敬吾『日本昔話大成』の話型とは別なものと考えた方がよいように思われる。