ねんねん猫のけつに(子守歌)

語り(歌い)手・伝承者:出雲市大社町永徳寺坂 手錢 敏子・大正7年(1918)生

ねんねん猫のけつに カニがはい込んで
うんとこどっこい 引っ張り出いたが またはい込んだ
ねんねん寝た子に アンモついて
べーべの子に負わせて ねんねんねんねん ねんねんや

(昭和51年5月8日収録)

解説

 ちょっと風変わりな子守歌である。むずがる赤ん坊をあやすのに、奇想天外な詞章を用いているが、まるでメロディーを持った民話のような内容である。猫とカニとの間に展開された物語の後は、オーソドックスな子守歌の詞章に落ち着く。このような子守歌であるが、以前、どこかでも聞いたことがあると思いながら、柳原書店の『日本わらべ歌全集』を調べてみると、七つの都県に同類の収録されていたことが分かった。比較的近い山口市のものは、

ねんねん猫のけつに がにが舞いこんだ
いたかろ かいかろ のけてろや
やっとこさと ひっぱり出したら また舞いこんだ

 「がに」というのはカニの方言であり、島根県下でもこのように言うところは多い。この山口市の歌では、大社町のように、後半のオーソドックスな感じの詞章は、ついていない。他の地方のものも同様に、それだけで独立している。次に関東地方、茨城県古河市のものを見てみる。

ねんねんねこのけつに かにがはいこんっだ
やっとこすっとこ 引きずり出したら またはいこんだ
一匹だと思ったら 二匹はいこんだ
二匹だと思ったら 三匹はいこんだ
三匹だと思ったら 四匹はいこんだ(以下続ける)

 この場合は、後半部で次々と数字を重ねて行けばいくらでも続けられる点に特徴がある。はるか離れた東北地方、岩手県一関市では、

ねんねんねこのけっつさ 豆が舞い込んだ
おがさん取ってけろ飛んでしまった
ねんねんねこのけっつ かににはさまれた
かあちゃん取ってけろ 逃げてしまった

前の歌に比べると、侵入した異物は、自分から去ってゆくという展開をしているところに特色がある。これ以外の地方の歌は、紹介しきれないので省略する。ただ、侵入者について述べれば、東京都八王子市や山梨県鰍沢(かじかざわ)町ではカニ、東京都千代田区や埼玉県浦和市ではアリとなっており、多少の違いを見せているのである。