ここのかかさん(手まり歌)

語り(歌い)手・伝承者:隠岐郡隠岐の島町油井 藤野 コヨさん・明治38年(1905年)生

ここのかかさん いつ来てみても
紺の前掛け茜(あかね)のタスキ 掛けて港へ塩汲み下(さ)がる
沖の船頭さん こらこら招く
招く船頭さんに 木綿糸もろて
何に染めかと 紺屋に問えば
一に橘 二にカキツバタ 三に下がり藤 四に獅子牡丹 五つ井山の千本桜
六つ紫いろいろ染めて 七つ南天 八つ山桜 九つ小梅をいろいろ染めて
十で殿ごさんの 好いたように染めた

(昭和52年7月30日収録)

解説

 隠岐の女性は実によく働く。それを反映しているのか、ここの手まり歌には、このように「ここのかかさんいつ来てみても…」で始まるものが、あちこちで聞かれる。しかし、不思議と本土になると、「一で橘」以下の後半部だけの歌ならともかく、前半部を持ったこの類の歌に出会うことはない。
 さて、ここでは手まり歌としてうかがった。同様に西ノ島町でもそのように聞いたが、実は盆踊りの口説きとしても、この歌はうたわれていた。それは西郷町と五箇村や布施村でで聞かされているが、具体例として布施村の口説(くど)きを紹介する。ただ、途中、囃子言葉として「ア、ドッコイショ」とか「ハー、ヨートシェ」が入るが、それは省略して記しておく。

ここのかかさま いつ来てみても
朝は早起き 朝髪上げて 紺の前掛け茜(あかね)のタスキ
掛けて浜へと 塩汲み行きゃる
沖の船頭さんが はらこら招く
招く船頭さんに さらし三尺もろた
帯に短し タスキにゃ長し
何にしょうかと 紺屋に問えば
そこで紺屋の 申するのには
一に橘 二にカキツバタ 三で下がり藤 四で獅子牡丹 五つ井山の千本桜
六つ紫いろよに染めて 七つ南天 八つ山桜 九つ小梅(こんめ)を ちらりと染めて
十で殿ごさんの 好いたように染めるー灘部 修作さん・昭和二十三年(一九四八年)生ー

こうして眺めれば、大人の民謡である「盆踊り口説き」と子どものわらべ歌である「手まり歌」が、互いに交錯していることが分かる。紙面の都合で他の例は省略するが、このような例はまだまだ存在しているのである。